第121話 ドスッと一突きだよ

「……全然見分けがつかないよー」

「アキ、これ?」

「それはただの雑草だね。薬草はこっち」

「そう……」


 出会った場所から少し移動して、森の中へ。

 というのも、森の外辺りは2人に会う前にある程度採ってるし、これ以上は採り過ぎになるからね。

 ちなみに、ここからもう少し奥に進むと、僕が鹿に出会った場所だ。


「……気を付けないと」

「ん? アキちゃんどうかした?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと前に、この辺りで魔物に遭遇したなぁ、と思っただけなので」

「そっかー。でも大丈夫! もし出会っても、この槍でドスッとひと突きだよ!」

「姉さん。静かにして。魔物が寄る」

「はーい……」


 ラミナさんに返事をして、僕から少し離れた場所にしゃがみ込むハスタさん。

 現実でもそうなのかもだけど、ラミナさんって結構ズバッというよね……。

 ハスタさんもなんだかしょんぼりしちゃったみたいだし……大丈夫かなぁ……。

 僕がそんな心配をしていた矢先に、薬草を探すハスタさんの横へ、ラミナさんが静かに腰を下ろした。


「うーん……これ?」

「違うと思う」

「じゃあ、こっち……?」

「たぶん違う……」


 あ、ハスタさん……大丈夫そう……?

 結局のところ、なんだかんだで仲が良いんだろうなぁ……。


 採取してもらう薬草に関しては、僕が持ってる薬草を見本として見せて説明はしてるんだけど……、難しいかなぁ……。

 僕も最初はおばちゃんに教えてもらっただけだから、同じ流れを踏んでもらってるんだけど……僕の場合はシルフが結構ちゃんと覚えてくれてたみたいで、結構助かったんだよね。

 それでも、途中からなんとなくわかるようになったのは、<採取>のスキルを取得したからかもしれない。

 まぁ、何度かやってたら分かる……かな?




「お、あの丸まってる葉は……」


 2人はまだ見つけそうにないし、と僕自身も採取を始めたところで、カンネリを発見した。

 以前、アルさん達と森に行った際に採取したんだけど、あの時は雨が降ってたから、葉が開いてたんだよね。

 雨じゃなくても、水を垂らすと開くって言ってたっけ……?

 そう思って、インベントリから水袋を取り出して、水を葉の上から垂らしてみる。


「おぉ……! ほんとだ、開いていく……!」


 丸まっていた葉が、ゆっくりと開いていく。

 こうやって開いていくところを見るのは初めてだから、なんだか不思議な感じがする。

 なんか……生きてるって感じ。


 ちなみにカンネリは、葉と茎と根がそれぞれ違う薬に使えるらしい。

 まだ試してないから、わかんないんだけどね……。

 確か、葉は[解毒ポーション(微)]の材料になるって言ってたはず。


「姉さん。それ」

「んー? あ、これ?」

「たぶん」


 カンネリを抜いていた僕の耳に、そんな会話が聞こえてきた。

 顔をそっちに向けてみれば、2束の草を持ったハスタさんが僕の方へ歩いて来るのが見える。

 どうやらそれが、2人で見つけたものみたいだ。


「アキちゃん! これ!」

「……うん、薬草ですね。ひとまずこの束はお返ししておきますので、次からは見比べながら探してみてください」

「やった! ラーミナー! 合ってたってー!」

「そう」

「うん! 見本も手に入れたし、スピード上げていくぞー!」


 はしゃぐハスタさんに頷きながら、ラミナさんは僕の方を見る。

 そして、あの無表情を崩して――


「えっ!?」

「ん? アキちゃんどうかした? 魔物でもでた?」


 咄嗟に出た僕の声に、採取をしていたハスタさんが振り返る。


「え? いや、魔物は出てないですけど……」

「そう? もし出たら教えてね! 私やっちゃうよ!」


 そう言って、気合いを入れてみせてから、採取を再開するハスタさん。

 そんな彼女の後姿を見た後、僕はその隣にしゃがむラミナさんへ顔を向けた。


 ラミナさんは今までと全く変わらない無表情で、薬草を採っていた。

 しかし、よくよく見てみれば、その動きには迷いが全く感じられない……。

 もしかして……ラミナさんは最初から薬草がどれか、大体わかってたんじゃないだろうか?

 ハスタさんが見つけられるのを、待ってたって事なのかなぁ……?


 そんなことを思いつつも、さっき見せてくれた笑顔が、僕の頭からなかなか消えてくれなかった。

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