第98話 ルコの抽出液

 とりあえず連絡を取ってみるにしても……、誰から……。

 ここはトーマ君……。

 いやでも、トーマ君から連絡がないってことはまだ用事が済んでないってことかもだし。

 それなら、カナエさん……は、誘う時にはオリオンさんを誘ってもらうように連絡入れないとだし。

 じゃあ、キャロさん?

 でも、キャロさんはまだそんなに話したことないのに、いきなり連絡入れるのも……。

 ど、どうしよう……!


「アキ様、ひとまずは目の前のことをやっていきませんか?」

「んー、でも……」

「でしたら、キャロライン様には今度お店に伺ってみてはいかがでしょう? それに、お薬も上手く苦みが取れれば、カナエ様へのご連絡のきっかけにもなりますし、その時にまたカナエ様とオリオン様のお店に伺うのも手かと」

「うん……、それもそうだね。そうしよっか」


 鍋を見せながら話しかけてきたシルフから、鍋を受け取って、二人で調薬の準備をしていく。

 と言っても、鍋をセットして、中に瓶詰めしたルコの抽出液を入れていくだけ。


「でも、これってどうやって使うのかな……」

「そうですね……」


 問題は、この抽出液をどうやって使うのか、だ。

 薬草を漬けるだけなのか、漬けて火にかけるなのか……。


「それに、薬草ってそのまま入れていいのかな?」

「あ……」


 そのまま入れるべきか、刻んで入れるべきか……。

 こうやって考えると……、ルコの実、確かに足りなかったかも……。


「ひとまずそのままの状態で、漬けてみるだけ、でやってみよっか」

「そうですね、時間を決めて漬けてみましょう」


 シルフにお玉を渡して、僕はインベントリから薬草を取りだす。

 そして、それを鍋に入れれば、シルフが上手い事位置を調整してくれた。


「あとは、ひとまず様子を見て……」

「変化すればいいのですが……」


 シルフと2人並んで、じっと鍋の中を見守る。

 うーん……、何か変わってるのかなぁ……?

 数分見てても、特に変わったような気がしないんだけど……。


「シルフ……、これって何か変わってると思う?」

「特には……」

「だよね……。僕も、全然変化がない気がするんだけど……」

「そうですよね……」


 それからしばらく待ってみても、特に何か変化が起きてる様子はない。

 んー……、これはやり方が違うのかなぁ……?


「とりあえず、一度出して試して見よっか」


 同意するように何度も頷くシルフに笑いつつ、用意したまな板の上に薬草を移していく。

 水に漬けていたからか、いつもよりしなびた薬草を刻み、水を入れ替えて沸かしておいた鍋へ。

 そこからは、いつも通りの手順で[最下級ポーション(良)]を作っていく。


「というわけで、完成です!」

「アキ様、ずいぶん慣れましたね!」

「もう、これだけは、かなりの数作ってるからね……」


 <調薬>のスキルは、森から帰ってきたタイミングで、すでにレベルが13まで上がっていた。

 それからはあんまり完成品を作っていないからか、上がってはないんだけど……。

 それだけのレベルになるくらい、いっぱい作ってきたんだなぁって思うと、なんだか少し誇らしいような気持ちになる。

 まぁ、まだおばちゃんに比べれば全然なんだろうけど……。


「そ、それで……、ポーションの方はどうでしょう?」

「んー、見た感じはいつもと変わらない気がするけど……」


 結局は飲んでみないとわからない、ってことなんだろうけど……。

 しょうがない……、飲む……かぁ……。


「が、がんばってください!」


 僕の想いがそれとなく分かるからか、シルフが横で応援してくれる。

 よし、と小さく声にだしてから、腰に手を当てて一気にあおる!


「……っ!」


 にがい。

 やっぱり、にがい。


「あ、アキ様……?」

「……にがい」


 口の中いっぱいに広がる濃厚な苦み。

 そして、飲み込んだ後に喉の奥から戻ってくるような、えぐみというか、にがみというか……、そんな感じのなにか。

 うん……、これは……、いつもの[最下級ポーション(良)]だね……。


「シルフ、ごめん……。お水、ちょうだい……」

「は、はい!」


 すかさず差し出された水を、勢いよく飲み込んでいく。

 数杯飲んだところで、奥から昇ってくるえぐみのようななにかは消えた気がする……。

 うん、これは絶対……、ルコの抽出液の使い方が違うぞっ!

 思わず出そうになる涙を堪えつつ、僕はそう、強く思った。

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