第96話 一緒に

(私……、アキ様と一緒に行けるのでしょうか……?)


 少し寂しそうな顔をしながら、そう……シルフが問いかけてくる。

 そうだ、シルフは……、シルフは参加できるのだろうか……。

 プレイヤーにしか見えない告知の文章。

 つまり……、このイベントは――。


「お、アキちゃん! こんなとこで何してんの?」


 頭の中に何か閃きかけた瞬間、僕の後ろから聞いたことのある声が届いた。

 男性で……、こんな風に僕を呼ぶのは……。


「あーきーちゃんっ? 聞こえてない?」

「いえ、聞こえてます。ジンさん、お久しぶりです」


 声のした方へ振り返りつつ、目の前に立っていた男性に頭を下げる。


「おー、久しぶり! 元気してた?」


 右手で頭を掻きつつ、ジンさんは快活に笑う。

 僕より背が高くて引き締まった身体に、真っ赤に燃えるような短髪。

 言動はちょっと荒いけど感情が分かりやすいジンさんは、落ち着いたアルさんとは正反対だ。

 でも、不思議と嫌な気分にならないから不思議なんだよね。


「はい! ジンさんは……、あれ? 今、一人ですか?」

「あー、一応リアと一緒なんだが……。あいつなんか、寄りたいとこがあるとか言って、いきなり店に入っていきやがってよ」

「あぁ、なるほど……」


 つまり、二人でデートしてたってことでいいのかな……?

 そもそも、ジンさんとリアさんが付き合ってるかどうかは知らないけど……。


「そんでまぁ、ぶらぶらしてたらアキちゃんが見えたからな。アキちゃんこそこんなとこで何してんの?」

「あぁ、その私は……イベントの告知をまだ見てなかったので」

「あー、なるほどね。それでここの見に来たんだ。まだ全然情報出てないよな?」

「そうなんですよね……。でも、アイテム制限の数とか知れたので良かったです」


 知らなかったら直前で悩んで、変なモノ持って行ってたかもだし……。

 20種かー……、どうしようかなぁ……。


「あ!」

「ひゃ!?」


 また少し考え込んでた僕の目の前で、ジンさんが急に大声を出した。

 その声の大きさに驚いて、変な声が出ちゃった……。

 恥ずかしいなぁ、もう……。


「そーそー、そのイベント! アキちゃんさ、参加するよな?」

「え、えぇまぁ……。そのつもりですけど……」

「じゃあさ、俺らと一緒にやろう。俺らのパーティーって4人なの知ってるよな?」

「あ、はい……、知ってますけど……」


 ジンさんのパーティーは、アルさん、ジンさん、リアさん、ティキさんの4人で組んでるパーティーだ。

 パーティー自体は5人が上限だから、あと1人分余裕があって……以前、茶毛狼のときはそこに僕が加わる形で、組んでたよね?


「あ、でも他に一緒にやりたいやついるか? もしいたらそっちでパーティーを組んで、同盟ってのもいいぞ」

「あー、なるほど……。いたかなぁ……」


 ジンさんの言葉に、メニューからフレンドリストを開いてみれば……。

 アルさんにトーマ君と、カナエさん……あとキャロさん……あれ、これで全員……?

 そういえば、オリオンさんとは繋いでないんだっけ……。


「んー……、わかんないですけど、数人誘ってみたい人がいます」

「お、なら同盟って方がいいかもな!」

「でも、僕なんかでいいんですか?」


 正直、僕は戦うにはまだまだ力不足だし、アルさん達のパーティーなら僕を誘うよりも、知り合いにもっとすごい人がいそうなんだけど……。

 そんな気持ちを込めて聞いた僕に、ジンさんは何を言われたのかわからないみたいな顔をして、首を傾げる。


「ん? なんで?」

「え? だって……僕、あんまりお役に立てないですし……」

「ん……? 何の話だ?」

「え? イベントの話ですよね?」


 話しながら二人して、頭にハテナが浮かんでる気がする……。

 えっと……、イベントの話……だよね?


「イベントと、アキちゃんがダメってのは……なんか関係ある?」

「え?」

「だってさ、俺はこないだ一緒に狩りに行けて楽しかったぞ? その後のメシも楽しかったし美味かった」

「は、はい」


 僕より大きな体を大きく動かしながら、思い出し笑いも混ぜながら、ジンさんは僕へと言葉を飛ばす。

 その子供みたいな姿に、少し驚きながら何とか返事をした僕へ、ジンさんはさらに近づいて口を開いた。


「だからさ、アキちゃん! 一緒にイベントやろうぜ!」


 僕の目をまっすぐ見て、右手を差し出すようなポーズで、彼はそう言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る