第91話 基礎と応用

 洗い終わった道具を置いて、椅子へ腰を落とす。

 カナエさんとは、机を挟んで対面へ。


「それで、どうでした? 作ってるところを見てみて。その、なにか感じてもらえてたら良いのですが……」

「そうですね……。調薬、ではないのですが、他のなにかを始めてもみてもいいのかも、とは思いました」

「そうなんですね! それならよかったです!」

「まだ何をするかはわからないのですが、これからじっくり探してみようかと思います」


 そう言ってカナエさんは笑う。

 きっとカナエさんなら、自分に合ったものを見つけられるんじゃないかな? ……なんて、なんとなくそう思った。


「そういえば、アキさん」

「ん?」

「先ほどの作業を見させていただいて、思ったことなのですが……、よろしいでしょうか?」

「あ、はい」


 なんだろう?

 レシピについてとか、材料の取れる場所とか……?

 でも、そのあたりは言うつもりもないしなぁ……。


「あの、さっきも言いましたが、お薬を作る作業は、なんだかお料理みたいでしたよね?」

「え、えぇ、はい」

「オリオンさんも言ってたことなのですが、お料理のやり方とかが流用出来たりしないのでしょうか……?」

「料理の、やり方……?」

「はい。例えば、ほうれん草なんかを汁物に入れる際は、した茹でをすることで苦みを取ったりするのですが……。これは流用出来たりしないのでしょうか……?」

「なるほど……」


 たしかにそれは試したことないかも……。

 ただ、した茹でするってことは、成分が抜け出てしまわないかが心配だなぁ……。


「ちなみに、それをしようとしたら、手順としてはどうなるんですか?」

「そうですね……。お水を沸騰させて、塩と少量のサラダ油なんかを混ぜてから、ほうれん草を茹でていく感じでしょうか……」

「そんなに難しくはなさそうですね」

「えぇ、ただ……。こっちでの材料はちょっとわからないですが……」


 まぁ、それに関してはおばちゃんに聞いて探してみるとして……。

 ひとまず、次はその方法を試せるように準備していくかな。


「ありがとうございます。とりあえず次はそれを試してみようと思います」

「いえいえ、こちらこそ。見せていただいて、ありがとうございました」


 お互いに小さく頭を下げながら、お礼を交わす。

 ふと画面端の時計を見てみれば、カナエさんが迎えに来てから結構な時間が経っていた。

 時間的には、今日続きをやるのは難しいかなぁ……。

 材料を探すにも、露店を回るなら明るい時間のほうが良いだろうし……。


「カナエさん。ぼ……違う、私は、そろそろログアウトしようかと思いますが……」

「あ、そうなんですね。でしたら、ちょうどいいですし、私もログアウトします。この後特に予定もないので」

「わかりました。ではお先に失礼します!」

「はい、お疲れさまでした」


 僕の言葉に、笑って返すカナエさんを視界の端で確認しつつ、僕はログアウトした。




「んー……。相変わらず人が多いなぁ……」

(そうですね……)


 カナエさんと会った次の日、僕は南門周辺の露店を見に来ていた。

 以前、アルペを買った果物屋さんの他にもいろんなお店があり、のぞいて見ているだけでも楽しくなってくる。

 けど、今日は目的があって来たんだし、そっちを優先しないと……!


(シルフ。おばちゃんが教えてくれたやつがあったら教えて。すぐ買いに行くから)

(はい、お任せください!)


 そう言って、シルフは僕から離れ、宙を浮きながら露店を見てくれる。

 それを見送りつつ、僕も近くの露店から目的の物を探し始めた。

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