第68話 時間があれば

 カンネリは水分が葉にかかると、丸まっていた葉が開くという特殊な植物。

 根から茎が伸び、それを中心に蔦が広がっている。

 大きな木が多い森の中でも、水分や光を多く得るためにこの形に進化したのかもしれない。


「根も素材になるし、採るなら綺麗に掘り出さないと」


 周りに落ちていた木の枝や石を使って、少しずつ地面を掘り返す。

 思ったよりも根が深く、最後まで掘るのは厳しそうだ。

 そう思い、途中から大きく周りを掘る方向に変更し、ある程度のところで引き抜いていく。


「よっ……ほっ……」


 力を入れすぎないように、ゆっくり慎重に引っ張れば、数回ほどでズルリと一気に抜けていく。

 うん、初めて採ったにしては綺麗に採れたんじゃないだろうか?

 目に見える傷もないし、手放しで褒められても良いくらいだ。


「って、違う!」


 今の状況を思い出して、恐る恐るアルさんの方へ顔を向ける。

 できればまだ念話しててくれれば……なんて願いは叶わず、彼は僕の方を見ながら「ほう」と頷いた。


「相変わらず上手いな」

「あ、その……」

「警戒を忘れて採取していたのは良くないが、元よりアキさんはそっちがメインだからな。俺やトーマがいるなら、それで良いんじゃないか?」

「……ごめんなさい」


 怒られたのか、怒られていないのかわからないけれど、どう考えても僕が悪いのは間違いない。

 そんな思いからか頭を下げた僕に対して、アルさんは「いや、謝らなくていいんだが」と手を振った。


「トーマの件なんだが、一度こっちに合流するらしい。どうも説明しにくいみたいでな」

「説明しにくい、ですか?」

「ああ。だから合流するまではここを動けない。その間、アキさんは採取をしててくれても構わないぞ」

「えっと……じゃあ、お言葉に甘えて……」


 アルさんの言葉に頷いて、先ほど採取したカンネリの方へと向き直る。

 抜いてる最中から目に付いてたんだけど、どうも周りにも色々生えてるみたいなんだよね。

 目に見える範囲でもカンネリが何個か生えてるし、根絶やしにしない程度に採っておこうかな!



(アキ様!)

「わひゃ!?」


 慎重に……それでいて大胆に土を掘り起こし、素材を採取していた僕の脳内で、突如シルフの声が響く。

 いきなりの大声だったからか、驚いて尻餅をついてしまった……。


(シルフ? どうしたの?)

(至急アル様と一緒に救援を! トーマ様が!)

(トーマ君がどうかしたの?)


 ひとまず、尻餅をついてしまったことで汚れたお尻を払いつつ、僕はアルさんの方へと向かった。

 アルさんもまた、トーマ君から念話が来たらしく、険しい表情をしていた。


「アキさん。トーマから救援要請だ」

「僕もシルフに聞きました。でも、救援って……」

「どうも誰かを守ってるみたいだな。かなり厳しい状況らしく、念話で聞けたのもそれだけだ」

「了解です。詳細はシルフに聞いてみます」


 「頼んだ」とアルさんは頷き、素早く周囲を見まわす。

 後から聞いた話だけれど、この時アルさんは戦いの音を探していたらしい。

 臭いは雨で消えてしまっていたみたいで、頼りになるのが音しかなかったとかなんとか。


「アルさん。敵は蜘蛛と蛇みたいです。どうも女性を1人守ってるって」

「わかった! なら到着次第、アキさんはその人を回復して下がってくれ」

「わかりました」


 トーマ君の戦っている方へと走りながら、シルフに聞いた状況をアルさんへ伝えていく。

 途中、僕とのパスを辿って合流したシルフに速度を上げてもらい、僕らはトーマ君の元へと辿り着いた。


「トーマ!」


 声と共にアルさんが一気に速度を上げ、蜘蛛の群れを弾き飛ばしながら突き抜けていく。

 シルフのサポートがあるにしても、ちょっと無茶しすぎじゃないだろうか……。

 っと、遅れないように僕も行かないと。


「やっと来たか。今回ばかりは死ぬかと思ったで」

「ひとまず俺の後ろに下がれ。回復する時間程度は稼いでやる」

「サンキュ。頼むわ」


 2人の会話を聞きながら、僕はトーマ君のいた位置より、さらに奥へと急ぐ。

 トーマ君の姿が見えた時から見えてたんだけど、そこに倒れてる女性がいたからだ。

 こんな時間のこんな場所に……なんでいるのかはわからないんだけど。


「大丈夫ですか?」


 問いかけてみても返事はない。

 試しに腕や頬辺りを軽く叩いてみても反応はない……死んではないみたいだけど。


「んー……気絶かなぁ」


 ひとまず意識のことは置いといて、回復するためにポーションを用意する。

 気絶するほどのダメージを受けたってことなら、HPも結構減ってるだろうし、回復しておくにこしたことはないよね。


 とりあえず急いで回復するために、[最下級ポーション(即効性)]を作って……さて、どうするかな。


「アキ? どないしたんや、飲ませんのか?」

「いや、どうやって飲ませようかなって」

「あー……流すだけやったら入らんやろな。口移しでもすりゃええやん」

「で、できないよ!? そんな!」

「今は女同士やろ。気にすんなって」

「いやいやいやいや、ダメだって!」


 確かに身体としてはそうかもしれないけど、それとこれとは話が別というかなんというか……。

 でも、悩んでる内に即効性が腐ってもダメだし……。

 こうなったら仕方ない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る