第51話 新たなるアイテムへ

 目の前に置かれた鍋、その中にある水がお湯に変わり、こぽりと小さな音を立てた。


「……はぁ」


 [下級ポーション(良)]を作るために、沸き過ぎない最適なタイミングで火を落とす。

 何度も作ったからか、今となっては温度の確認もいらない。

 そんな余裕があるからか……僕の心の中は、全然違うことでいっぱいだった。


「アキ様、また溜息が出てますよ」

「おっと。やっぱりどうしてもね」

「今度の探索が気になりますか?」

「探索がっていうよりも、あの2人がね」


 シルフと話しながら、薬草を溶かした蜜の中にお湯を入れ、ゆっくりと混ぜていく。

 初めは硬く、混ぜていくほどに柔らかく、色を薄く変えながら混ざっていく蜜とお湯に、なんとなく2人のことを重ね合わせた。


「こんな風に、上手いこと合わさってくれると思ったんだけどね」

「きっと、大丈夫ですよ」

「そう信じたいけどね」


 ある程度混ざったところでシルフに冷ましてもらい、瓶へと移していく。

 最近はこんな風に話しながら、もしくは別の事を考えながらでも、手元は狂わなくなっていた。

 もしかすると、<調薬>のスキルレベルが10を超えたからだろうか?

 まぁ、案外……同じものばっかり作ってるから、体が覚えてしまったって可能性もあるだろうけど。


 そういえば以前、アルさんと2人で森へ行ったときに採取した素材って……今まで全然手を付けてないなぁ。

 [下級ポーション(良)]の数も十分だし、気分転換に触ってみるかな。


「シルフ。ポーション作りは一旦止めて、別の作業にしよっか」

「あ、はい! でしたら包丁などを洗っておきますね」


 「うん、おねがい」と返しつつ、インベントリの中に入っている素材を確認していく。

 色々入ってるけど……とりあえず何ができるかわからないし、薬草と同じように刻んだり、粉にしたりしてみようかな。

 そうやって考えてる僕の横から、「アキ様、準備できました」とシルフの声がかかる。

 すぐ近くから聞こえた声に顔を向ければ、彼女は触れあうほど近くに立っていて、僕を見上げていた。


「ありがとう、シルフ」


 言いながら軽く頭を撫でると、くすぐったそうに身をよじりながらも、その表情は嬉しそうに崩れた。

 その反応に、撫でる僕も嬉しくなってくる。


「よし、それじゃ試してみようか」

「はいっ!」


 頭の上に手を置いたまま言った僕の言葉に、シルフは完璧な笑顔で頷いてくれる。

 その表情が非常に可愛くて、照れを隠すように僕も笑った。



「出してみると結構ありますね」


 作業台の上に並べた数々の素材に、シルフが溜息交じりにそう言った。

 シュネの木の枝に、強躍草キョウヤクソウ

 ツギの実にカザリ草に……その他いろいろ10種類以上。

 我ながらよくここまで集めたものだ。


「あ、これはポルマッシュですね。おば様に教えていただいた素材なので、シュネの木の枝と強躍草、ポルマッシュは私でもわかりますね」

「偉い偉い。よく覚えてたね。さて、どれから試すかな……。ひとまず薬草と同じ事を試すなら、草系から始めてみようか」


 それならまだ慣れてる分、扱いに困るってこともないだろうし。

 頭の中で結論付けて、作業台から強躍草以外の素材をしまっていく。

 さて、まずは鑑定っと――


 [強躍草:自生力が強く、踏まれても成長する雑草の一種。

 微量の興奮成分が入っており、大量摂取すると危険]


 微量の興奮成分……これが[興奮剤]の元になるんだろうな。

 ただ、微量ってことを考えると、単体だとそこまで効果がないって感じかな?

 だとすると、何個かまとめて煮ることで、十分な興奮成分を抽出できないだろうか?


「ならまずは……刻んで煮てみるか。薬草と同じく5束で試してみよう」

「抽出方法が薬草と同じなら、[アクアリーフの蜜]を使ってみてもいいかもしれませんね」

「そうだね。そっちも後で試してみようか」


 シルフのアイデアに頷きつつ、まず手始めにと5束まとめて刻んでいく。

 すると切り口から、葉の色と同じ赤い汁が滲み出てきた。

 この汁の中に、興奮成分が含まれているんだろうか?

 それはわからないけれど、ひとまず切り終えた強躍草を水の入った鍋の中へ入れてから、火にかけた。


「……この色は」

「ちょっと、怖いですね……」


 かき混ぜていくと、鍋の中の水が……どんどん赤く染まっていく。

 まるでトマトスープのような……いや、それよりももっと濃い赤色に。

 そんな変化を確認しながら数分程度混ぜてやれば、次第に色の変化が落ち着きはじめ、完全に止まったところで僕は火を消した。


 [染色液(赤):強躍草を使った染色液。

 布などを浸らせると、赤い色で染めることができる]


 瓶に移したものを鑑定すれば、そんな風に結果が映し出される。

 一応は[興奮剤]を目指したはずなんだけど……なんだか違うのが出来ちゃったなぁ……。

 でも「おめでとうございます?」と、微妙な顔で祝ってくれるシルフに、僕は一応のお礼を言った。



「おばちゃーん」

「はいはい。どうかしたかい?」


 一応、道具としては成功したものの使い道に困った僕は、瓶に入れた[染色液(赤)]をおばちゃんに差し出す。

 おばちゃんはそれを見て、少し懐かしむように笑った。


「おや、これは[染色液(赤)]かい。強躍草を使ったんだねぇ」

「うん。本当は[興奮剤]が作れればと思ったんだけど、そう上手くはいかなかったみたいで」

「そう慌てるものでもないさね。それに、折角[染色液(赤)]コレが出来たんだし、一度これでも染めてみたらどうだい?」


 おばちゃんは言いながら、カウンターの横の棚に手を伸ばし、おもむろに商品の布を取り出した。

 それは麻っぽい生地の白い布で……。


「え、でもそれ商品じゃ」

「端切れみたいなもんさ。蜘蛛の糸なんかを使ってるわけじゃないからね、安いもんさね」

「そうかもしれないけど……って、ん? おばちゃん、蜘蛛の糸って布に出来るの?」

「ああ、そうさ。蜘蛛の糸は細くて丈夫だからね。良い布が作れるよ」

「ふむ……」


 おばちゃんから布を受け取りつつ、おばちゃんの言葉を頭の中で反芻する。

 蜘蛛の糸か……森に行った時に採取できそうならやってみようかな?

 といっても雨の日に行くから、難しそうではあるんだけど。


 そんなことを考えながら、おばちゃんにお礼を言って、作業場へと戻る。

 とりあえず今は……これを染めてみようかな!




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名前:アキ

性別:女

称号:ユニーク<風の加護>


武器:草刈鎌

防具:ホワイトリボン

   カギ編みカーディガン(薄茶)

   白いワンピース

   冒険者の靴


スキル:<採取Lv.7→10><調薬Lv.8→12><戦闘採取術Lv.6→7><鑑定Lv.2→3>


精霊:シルフ

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