第476話 ◆驚異の食べっぷり
◆驚異の食べっぷり
葵さんは帰国後、自分がどういう経緯でアサシンになったか、そしてあたしを殺してしまったことをマスターに正直に話したそうだ。
マスターは葵さんの話しを最後まで聞いた上で、葵さんの心境・心情は理解してくれたものの、罪をきちんと償うべきだと葵さんを諭した。
そして、葵さんの罪が許される時まで、自分はずっと待っていると言ってくれたそうだ。
葵さんはその後、再びあたしの国へ戻り自首するつもりだったけど、どうやらあたしがピンピンしていたので、たいそう驚いたという。
そして心の整理がつかないまま、この地に辿り着いてこのお店で働きだしたのだそうだ。
葵さんは泣きながら、あたしに何度も謝罪したが、誤っても自分がしたことは許されることではないとも言った。
それに、あたし以外にも何人か手にかけているアサシンなので一生罪を償い続け、もうマスターのところへは帰らないつもりだと言う。
少なくてもあたしは生きているし、葵さんが脅されてやむを得ずにアサシンに仕立てられてしまったことは理解したし、気の毒だと思う。
あたしが葵さん自身のことに口はだせないけれど、あたしは葵さんを許すよと言った。
それを聞いて葵さんは、また号泣した。
が、アリシアがいい加減にステーキを出せ見たいな顔をして、じぃーーっと葵さんを見ていたのに気が付いて、葵さんは慌てて厨房にオーダーを伝えに行った。
***
カプッ
モグモグ ゴックン
う~ん おいしーーぃ♪
腹ペコだった、あたしとアリシアは「出し抜けにステーキ」のトップリブステーキ(300g)とヒレステーキ(200g)とスープ、ライス、サラダをペロリと食べ、まだちょっと物足りなくてリブロースステーキ(300g)を追加した。
さっきまで大泣きしていた葵さんは、あたしたちの食べっぷりを見て笑顔を見せた。
このステーキ屋さん、あたしたちのお城のそばにもあればいいのにね。 食いしん坊のアリシアがあたしを見てニカッと笑う。
うん、そうだね。 でもさ、アリシアなんか毎日食べに行きそうで、ぶっくぶくに太っちゃうんじゃない?
あ゛ーー なら無くてもいいやーー。 (しかし顔は悲しそう)
あたしたちは葵さんに、またいつか会いに来るからねと言って、お店を出た。
さあ、あとは宿屋に戻ってシャワーを浴びて寝るだけだ。
***
翌朝、アリシアのぷっくりしたお腹をツンツン突いてみたが、ぐっすり寝ているので近くにあったパン屋さんに、朝食用のパンを買いに行った。
あたしは、パンが焼ける匂いが大好きだ。 匂いをかいでいたら、ふいにメイクル村のサフラのことを思い出した。
あれから一度も会っていないけど、元気にしているだろうか。
そんなことを考えながらパン屋の中に入る。
パンの匂いと甘~いジャムの香りが鼻をくすぐる。
気が付くとトレイの中は、パンが山盛りになっていた。
あーー 昨日ステーキをあんなに食べたのに、うっかりだよ!
でも、もしかしたら今日はヴォルルさんたちと天界で一戦交えることになるかもしれないし、このくらい食べておかないとパワーが出ないかもだよね。
あたしは、その他にもいろいろ理由をつけてそのままパンを買った。
宿屋に戻って部屋のドアを開けたら、アリシアがもの凄い勢いで飛びついて来て、思わずパンが入った袋を落としてしまった。
アリシア、いったいどうしたの?
セレネがあたしをおいて、一人でヴォルルさんのところに行ってしまったと思ったの。
いやいや、そんなことしないし!
だって目が覚めたら、セレネがいないし。 宿屋の中をあちこち探してもいなかったから・・・
あー はいはい。 ごめん、ごめん。 アリシアがよく寝てたから、近くのパン屋さんにパンを買いに行ってたんだよ。
ほら、鼻かんで。 鼻水が少し垂れて、涙もこぼれそうになっている。 こういう顔をみると胸がキュンとなる。
ち~ん
それじゃ、着替えたらパンを食べて出発よ。
うん。
アリシアは滲んだ涙を手でグシグシすると、はにかんだ顔であたしを見た。
あたしは急に愛おしくなって、アリシアをギュッとハグし、頭をポンポンしてあげた。
***
セレネさん、今回はすごい食べっぷりでしたね。
ふふん 今日からあたしのこと、ギャルセレさんって呼んでもいいわよ。
へっ つまんねーよ。
ゲシッ
あぅ・・
あんたこのごろ生意気よ!
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