第300話 ◆生まれましたぁ!
◆生まれましたぁ!
まりあ先輩の国に無事到着したあたしたちは、その足で女王様に謁見を申し出た。
あたしは臨月の大きなお腹だったので、謁見には自分で縫ったマタニティドレスを着ていった。
まりあ先輩は、あたしたちがお城に着いたことを知るとなんと自ら出迎えに出てきてくれた。
この国で、あたしは子爵の爵位を授かっていたので一応女王様の家臣になるのだけれど、別の地で自分の国を築きそこの女王となったので国家間という観点では対等な立場ではある。
ただ、こういう関係よりも高校の先輩、後輩という仲良しであることの方が大きいし、同じ境遇である二人の友情はとても厚いのだ。
あたしは移民の件で、まりあ先輩にたいへんお世話になったことにたいして丁重にお礼を述べた。
まりあ先輩は、あたしのお腹をみて自分のことのように喜んでくれて、落ち着くまでリアムとエイミーが住んでいた家を提供してくれた。
それに、まりあ先輩の国は圧倒的に人間(魔物系、エルフ系等ではない)の数が多いので、あたしも安心して出産が出来る。
何と言ってもここには、お医者さんもお産婆さんもいるから心強い。
まりあ先輩はお淑やかになったアリシアにたいそう驚いていたが、事情を話すととても心配してくれた。
先を急ぐヴォルルさんとアリシア、それに まりあ先輩が付けてくれた世話係り数名を乗せた、元海賊船はララノアのもとを目指して、翌日早々に出航していった。
・・・
アリシアたちが出発してから1週間が過ぎた日の夕方、いよいよ陣痛が始まった。
あ痛たたた。 これが陣痛ってやつかぁ・・・ うっ・・・ イタタ・・・
シルフたちは、なんだか自分のことみたいに落ち着きがなくなって、部屋の中を飛び回っている。
それに反して、サリエル(嫁なのに、こいつが父親みたいになっている)の姿が見えない。
妊娠させた本人が居ないことに少しムカつく。
ねぇ、サリエルがどこに行ったか知らない?
さっき、外いった。
メイアがあたしのお腹をじっと見ながら教えてくれる。
えぇっい、あいつ自分の子どもの出産に立ち会わんのかいっ!
だがしかし、サリエルがお産婆さんを連れに出かけたことを、あたしは後で知る。
・・・
サリエルは焦っていた。
いま正に自分の子供が生まれそうになっている。
サリエル自身は長く生きて来たが、自分に子どもが出来たのは初めてだ。
こんな時は早く知識と経験が豊富な、お産婆さんに付いていてもらいたい。
お産婆さんがいる家の地図は、あらかじめもらっていた。
いま、その地図を頼りにサリエルは必死に駆けている。
あと少しで、お産婆さんの家だ。
そう、そこの角を曲がれば・・・
あれっ? 家が・・ない・・
・・・
あぅ、 痛っ・・
セレネはベッドの上で、だんだん間隔が短くなってくる陣痛に必死で耐えていた。
アリシアが額の汗を拭いてくれる。
ひっ ひっ ふぅ ひっ ひっ ふぅ
昔テレビで見たラマーズ法というのを思い出しながら、やってみている。
おかしいな、この呼吸法で陣痛が少し和らぐんじゃなかったっけ?
あ゛ーーーー 痛ーーーーーーっ!
セレネの声の大きさに、メイアの顔色が青くなる。
からだもカタカタと小刻みに震えているので、隣りの部屋に行くように言ったのだけれど、その声が呻き声混じりだったので超怖かったようだ。
メイア゛ーーーーッ と゛なりの゛ーーーぉ へやに゛ぃーーー 行ってて゛ーーーぇ いいよ゛ーーおぉぉーーー!
その声でとうとうメイアは恐怖に勝てず、もの凄い勢で部屋を飛び出して行った。
ひっ ひっ ふぅ ひっ ひっ ふぅ
セレネ、頭が出て来た!
もう頼りになるのはアリシアだけだ。
うーーーーん あ゛ーーーーっ!
・・・
あれっ? お産婆さんの家が・・ない・・
そう、サリエルは方向音痴であった。
自分が東西南北のどっちを向いているのか分からない。
地図を見た時は、必ず自分が見ている地図の上側(北)に向かっていると思い込む。
よって、大概間違った方向に行ってしまうのだ。
こういうタイプの人ほど地図に乗っている色々な情報は、全くと言っていいほど見ていない。
道路の本数とか交差点の数とかだけを見ていて、しかも真っ直ぐとか右とか左に行くしか考えていない。
そして、迷子になってから慌てだすのだ。
あれ? あれ? どうしよ~。
・・・
おぎゃぁ おぎゃぁ
サリエルが慌てだしたころ、セレネの赤ちゃんはシルフたちが無事に取り上げていた。
魔法で産湯を用意し体を洗って清潔なタオルでくるみ、セレネの横に寝かせてくれる。
これがあたしの赤ちゃん・・・
セレネは二人目のお母さんになった。 第一子のニーナはシルフが生んだ?が、この子は自分がお腹を痛めた子である。
そして、タオルで包まれた赤ちゃんの顔を見ようとタオルの頭の部分をずらしたセレネは、ちょっぴり驚いた。
ひゃぁ 天使との子どもって、生まれた時から輪っかがあるんだ~。
ふへっ、かわいい。
さっそく、セレネの顔は幸せの笑顔でいっぱいになる。
シルフたちもベッドの淵から興味津々に覗き込んでいる。
シルフもブラックさんも、ありがとうね。
あたしが感謝の気持ちを伝えると二人は見つめ合って、にっこり微笑んだ。
ドタ ドタ ドタッ
バンッ
そのタイミングで、サリエルが勢いよくドアを開けて飛び込んで来た。
ハァ、ハァ、ゼィ、ゼィ セレネ・・ ごめんなさい。 お産婆さんがみつから・・・
あああああぁぁ・・・ う、生まれたんですねぇ♪
よかったあぁ うわぁ かわいいぃぃーーーー! あたしに似てますか? ねぇ、ねぇ・・・
抱いてもいいですか? いや、抱かせてください!
ちょっと、サリエル。 嬉しいのはわかるけど、少し落ち着いて!
あああ・・・ 凄いです、もう天使の輪があります。
そうそう、あたしもちょっと驚いちゃったよ。
セレネさま、ちょっとどころじゃありませんよ。 生まれてすぐに天使の輪があるなんて、将来は大天使間違いなしです。
へぇ・・・ さすがにあたしの子だけのことはあるわね。 あたしは、サリエルに意地悪をする。
いやいや、この子は天使ですよ。 っていうことは、サリエルの子じゃないでしょうか!
さっそく罠に、サリエルが引っかかる。
ふっ・・ いい? この子はね、あ・た・しが生んだのよ。
あ・・ そんなぁ・・
いやいや、冗談だよ。 サリエルがあんまりにも、はしゃいでいるから、ちょっとからかっただけよ。
この子はあたしたち二人の子どもだよ。
よ、よかったあ~。
もう、名前の候補は幾つか考えてあるんですよ。 その中でサレネさま気に入ったものをつけましょう!
で、いまさらなんだけど、この子は男の子なの、それとも女の子?
あたしは、赤ちゃんをタオルで包まれた状態で渡されたので、性別は確認出来ていなかった。
え~と・・
サリエルが、タオルをまくってチラッと見てから言った。
両方あります。
はっ?
そうです。 天使は元来中性なんでした。
ある程度大きくなるとそれまで育った環境とか本人の自我によって性別が決まるんです。
自分、すっかり忘れてましたよ。
へぇ・・ そうなんだ。 それじゃさ、迂闊に名前つけられなくない?
どうしてですか?
だって、例えば男の子になるのに女の子の名前つけたら変じゃない?
大丈夫ですよ。 あたしが考えた名前は、どっちもOKですから。
アリエル、エリエル、セリエル、マリエル、ケルビム、ラジエル、デュミナス、セラフィ・・
う~ん。 もっとカワイイのがいいかなぁ・・・
二人で赤ちゃんの名前について話しをしていると、サリエルが急に不安げに部屋の周囲をキョロキョロ見始めた。
神様、そこにいるのは分かっています! 姿を現してください!
ええっ! 神様って、あのリリーさん?
なぜ神様が現れたのか気になるが、次回へ続くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます