第291話 ◆アドヌラスって良い奴なの?

◆アドヌラスって良い奴なの?


ランランランド島は、相変わらず中央付近の火口から黒い煙を吐き続けていた。


その黒い煙は上空高くまで届き、昼間なのに辺りを夜のように暗くしていた。


そしてその黒い煙の下にはアドヌラスの仕業と思われる真っ赤な炎が広がっている。



あたしたちを乗せた船は、アミさん、セイラさん、ノアさん、リアラさんが避難した島の小さな港へ入港した。


島は混乱した様子もなく人々は平穏な暮らしぶりだったし、火山による農作物の被害も深刻な状況ではなさそうだった。


あたしは上陸早々、アミさんたちが働いていそうな港にある酒場や料理屋を探して歩いたがそれは見事にはハズレ、お姉さんたちは近くの商店街で働いていた。



見つけたのは臭覚が鋭いメイアで、何年も前にちょっとの間だけ一緒にいただけなのに探し当ててしまった。


やはりドラゴンの能力は凄い。



そしてアミさんたちに、この島の情報についていろいろ聞いたところ、とんでもない事実がわかった。


なんでも、ランランランドがあった本島の火山爆発で、辺り一帯は太陽の陽があたらなくなって気温が下がってしまい農作物にも深刻な影響が出始めたそうだ。


周辺の島々に暮らしていた人たちが真剣に移住を考え始めたころ、どこからかアドヌラスが島にやって来て、空に向かって炎を吐いた。


その炎が出す光と熱が、煙や灰で奪われた太陽のかわりとなり、農作物が元通り生育するようになったのだそうだ。


また、熱でできる上昇気流で火山灰なども直接島に降ることもなく、こうしてなんとか従来通りの島の生活が出来ている。



なんか、アドヌラスっていいヤツ見たいじゃん。


これで、もしあたしたちがアドヌラスを退治してしまったら、この島は人が住めない島になってしまうだろう。


それに、聞いたところではアドヌラスが悪さをしたようなこともないようだし、島に居座ってもいないのだと言う。


アドヌラス対策のために死にかけたあたしの気持ちとしては微妙だけれど、戦う必要がないのならばそれに越したことはない。


本島の噴火がいつ鎮まるかは定かではないけれど何十年とは続かないだろうし、悪事をしていないアドヌラスを退治する理由はない。


そんな状況だったので、あたしたちは最低限の水と食料を補給させてもらい、次の目的地であるアンジェリク女王の国を目指すことにした。



次の目的地までは結構遠い。  また退屈な日々が続くのだが、それでも何も起こらないのがいいに決まっている。


そうそう、アンジェリク女王に会うまでには、あのアリシアの爆裂魔法でも溶けきれなかった金の鎖も外れていることだろう。


あたしが普通の生活に戻れる日がくるのもあと少しだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る