第262話 ◆増えた犬

◆増えた犬


あたしは、大人になったような喋り方をするアリシアが気持ち悪くて、部屋を飛び出した。


長い廊下を走り、階段を駆け下りると噴水がある綺麗な中庭へ出た。


噴水を眺めているうちに、落ち着いてきたので少し考えてみる。


人は頭を強く打つと記憶喪失になるのは知っているけど、あれはいったいどういうこと?


もしかしてハーフエルフは、ああなるのかな?


噴水の淵の石の上に腰をかけて、はぁ~と溜息を吐く。


ララノアさんの所に早く連れていって、お医者さんに診てもらうのが一番いいのかな。


・・・



そのころ、部屋の中ではモモとアリシアが話を続けていた。


アリシアさん、額に何か書いてありますけど、これってなんですか?


モモが手鏡をアリシアに渡す。


アリシアが鏡に映ったおでこの’犬’の文字をじっと見て、ニコッと笑った。


なんでしょうね。 きっとセレネお姉さまが早く良くなるようにと書いてくださったのかもしれません。


ああ、やはりセレネさんは、お優しい方なんですね。  あたしもお友達になれてとても嬉しいです。



・・・


やっぱり早くエルフのお医者さんに診てもらおう。


アリシアがこれ以上おかしくなったら、不気味すぎる。


そうと決まったら善は急げね。


あたしは、直ぐに中庭を後にして部屋に戻った。


バンッ  ドアを勢いよく開けて開口一番。


アリシア、おかあさんのところに・・・はや・・く・・・


ドアを開けた音に驚いて、モモちゃんとアリシアが目を大きく見開いて、あたしの方を見た。


あたしも二人の顔を見て、叫んだ!


あなたたち、いったい何をしてるの!!


なんと二人の顔には、’犬’の文字がいっぱい書かれているではないか。


えへへ、なんかこの模様ってカワイイから、いっぱい書いちゃった。


見てくださいセレネさん、あたしもアリシアさんに書いてもらいました。


二人とも満面の笑みで、あたしに’犬’の字を見せて来る。


ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。  もうこういうイタズラは二度としません。 ←心の中でつぶやいています。



二人とも可愛い顔が台無しだから、早くこれで拭きなさい。  あたしは持っていたハンカチをモモちゃんに差し出した。


アリシアさんにせっかく書いていただいたので、お父様に見せてからでいいでしょうか。


いや、お願いしますから、いま拭きとってください。


・・・


二人の顔が綺麗になったところで、さっきの続きを話し始める。


アリシア、ララノアさんに会いに行こう!


ママのところに・・・


アリシアの顔がパァーと明るくなる。  あたしは、この顔を見てやっぱり連れて行かない方がいいかなと一瞬思った。

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