第235話 ◆まさかの先住民

◆まさかの先住民


マイホームも完成し、コリン君が余った木材で二段ベッドも人数分作ってくれた。


これでゆっくり休むことが出来る。


衣食住のうち住は、質素ながらも何とかなった。


明日からは畑を耕したり、水車を作ったりで超忙しそうだけど凄く楽しみだ。


あたしは、いろんな事が頭に浮かんで、わくわくして眠れないのだけれど、みんなは流石に疲れて爆睡している。


まだ水車も無いので発電などもできないから、家の中はランタンの明かりだけだ。


そのランタンの燃料も限りがあるので、あたしもそろそろ寝ることにした。



布団に入ってようやくウトウトし始めたところ、外でガサガサする音が聞こえて来る。


もしかしたら夜行性の動物が家の周りを歩き回っているのかも知れない。


窓も入口も内側から閂かんぬきが掛かっているし、この家は丸太を組んで作っているので頑丈に出来ている。


森に居た動物達や魔力を持たない魔物なら壊されたり侵入されたりする心配は無い。


明日に備えて早く寝ようとするが、ガサガサ音がだんだん増えてきて喧しくて眠れなくなる。



うんもぉーーー  うるさいよ!  


あたしは少しは使えるようになった魔法で追い払ってしまおうと決心し、ようやくあったかくなったベッドから這い出て入口へ向かった。


重たい閂を外してドアを開ける。


むろん外は真っ暗闇だ。


何も見えないが、外に出てみるとガサガサ音は驚くほど大きいし、しかもあちこちで聞こえてくる。


いったい何なんだろう。


あたしは、指先に意識を集中させ、小さな炎を出した。


辺りがぼんやりと明るくなる。


すると目の前にギザギザの棘がついた大きな足が蠢いているではないか。


恐る恐る見上げれば、なんと巨大な蟻があたしを見下ろしている。


昆虫は夜には活動しないと思っていたけど、ここではそうではないらしい。


こんなに大きな蟻ならその気になれば、この小屋の丸太など顎の力で粉々にされてしまうだろう。


あたしは、そろそろと後ずさりをして小屋の中に戻り急いで閂かんぬきをかけた。


そうしている間にも、ガサゴソと外の蟻の数は増えてきているようだ。



みんな起きて!  大変だよ!


あたしは順番にみんなを起こして回るが昼間の重労働の所為だろう、なかなか起きない。


そのうちバキバキと小屋の外壁をかじるような音がし始めた。


これはヤバイ!


あったしは焦って、ありったけの大声で叫んだ!


みんなーーー 小屋が壊されるーーーー!  起きろーーーーっ!!


流石に今度は、全員が飛び起きた。


みんな大変だよ!  外にもの凄く大きな蟻がたくさんいて、この小屋を壊そうとしてる!


そう言い終わるか否かのタイミングで、屋根に穴が開いた。


うわっ


壊れた木の破片がコリン君の上にバラバラと落ちて来る。




ゆ、ゆるせない!  せっかくみんなで作った家なのに・・・


アリシアの肩が怒りで小刻みに震えている。



バンッ


メイアがドアを勢いよく開けて外に飛び出すと同時にドラゴンの姿になり、空に向かってグォーーーと吠えた。


アリシアとコリン君も直ぐにメイアに続く。


外ではすぐさま、巨大蟻との戦闘が始まった。



部屋に残ったシルフは、天井に開いた穴をかじって広げようとしている蟻に、光り輝く光線を浴びせる。


その蟻の頭は光が当たった瞬間に蒸発する。


残った体だけがゴロゴロと屋根から転げ落ちていくのが音で分かる。


しかし、それも束の間。 次の蟻が天井の穴を大きくしようと大きな顎を差し入れてバリバリと板をかみ砕く。


これはダメだ!  蟻の数が圧倒的に多い。


ニーナ、シルフ、ここは危険だから表に出よう!


外に出てみて、あたしは驚愕した。


家の周りには、何百・・いや何千もの蟻が蠢いているではないか。



メイアーーー!  こっちにおいでーーー!


あたしは、メイアを呼びニーナとシルフを背中に乗せてもらった。


途中でアリシアとコリン君も拾って、いったん上空へ避難することにした。


空から見れば、出来たばかりのマイホームは、もう無残な姿になっている。


悔しくて涙が出た。



ここは、彼らの土地だったのですね。


誰にと言うわけではなくニーナが小さな声で言った。


そんな・・  あたし達が悪者だったなんて・・・


みんなの顔は暗く、途方に暮れていた。


せっかく良い土地を見つけたと思ったのに、また一から出直しとなってしまった。


こんなことになって、みんな本当にごめん。


あたしは、早くも開拓の道を選んだことを後悔し始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る