第201話 ◆猫耳司書と毛糸玉

◆猫耳司書と毛糸玉


キャロンさんは、この世界の分類上、獣人目ねこ科である。


向こうの世界では、ねこが毛糸玉にじゃれて遊ぶカワイイ姿を、ネット動画でもよく見ていた。


そして、ねこと毛糸玉の組み合わせは、身近にもあったのだ。


あたしがその事にもっと早く気が付けば、あんなことにはならなかったと後悔している。



それは、ランランランドのお姉さんたちを降ろした小島を出て、少し経った陽ざしが暖かい日の午後の事でした。


(セレネは今、曇りガラスの向こうで音声を変えたイメージでお話しをしています)


あたしとモッフルダフは、甲板にサマーベッドを並べて、仲良く日光浴をしていたんです。


あたしは、水着がないのでブラとショーツ姿でした。


モッフルダフはと言うと全裸・・ あっ、全裸と言っても彼は毛糸玉なんで決してイヤらしくないんですけど・・


遠目に見れば、サマーベッドの上に大きな毛糸玉が置いてあるようにしか見えなかったんでしょうね。


そこに偶然 ピィーーー さんが、通りかかったんです。


にゃっ!


まさかとは思ったんですけど、あっと言う間に右腕・・いえ右前足が繰り出されていて。


次の瞬間にモッフルダフ氏は、甲板の上をそれはもう見事な勢いで船首の方に転がって行ったんです。


それが、あたしが見たモッフルダフさんの最後でした。


・・・


という事で、フィアスに船を止めてもらって、船上と海上の大捜索が始まっていた。


海に落ちたのであれば、探し出すのは難しい。


猫パンチで飛んでいってから停船するまでに、200mは進んでしまっていたし、風向きや海流がどのようになっているかで捜索範囲が広がるからだ。


キャロンさんは、ねこの習性なので責められないが、皆はやってくれちまったな感を漂わしている。


特にアリシアは、いつものように容赦ない。



ちょっと、キャロン何やってくれたのよ!   


あたしは、おかげで甲板探しじゃないの。


アリシアは毛糸の端がどこかに引っかかっていないか調べさせられているのだ。



海上はメイアにシルフが乗って探している。


以前、巨大烏賊に襲われた時も上空から探したことがあったが、結局見つからなかった。


なにしろ海に落ちると人の形ではなく、一本の黒い毛糸になってしまうのだから、よほど目が良くなければ発見できない。


もし、潮の流れが速いのなら、発見できる確率は絶望的な数字だろう。



潮の流れがどうなっているか、ボクが確認します。  


コリン君そんな事できるの?


大丈夫です。 任せてください。


そう言うとコリン君は、氷結魔法で一辺が1mくらいの四角い氷を何個か作って船の近くに浮かべた。


氷の塊が流れる方向と速さを見れば、潮の流れと強さが分かる。


なるほど~  頭いいね。


なんで頭がいいのに、あんな間抜けな女装契約を結んだのだろう。 ←心の中の声



氷の流れを見れば、結構な速さで北東方向へ流れて行く。


その情報をメイアに伝えて、船から落ちたと思われる地点から北東方向を中心に探してもらう。


アルビン、スヴェン、ラッセも救命ボートを出して、捜索漏れがないようにもう一度ゆっくり調べていく。



その日は、日暮れまで探索を続けたが、結局モッフルダフを見つけることが出来なかった。

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