第175話 ◆魔王討伐作戦(その8)

◆魔王討伐作戦(その8)


ニーナが魚を獲るのに夢中になっていると突然背後から人の声がした。


そこで何をしているの?


急な背中越しの声に、すっかり油断していたニーナはすごく驚いた。


サッと真横に飛びのきながら声の主を確認すれば、なんとそれは人魚のモモだった。



あーー びっくりした。  モモさん、どうしてこんなところにいるんですか?


ふふっ


それは、わたしのセリフじゃないの。


ニーナさんこそ一人でこんなところにいるなんて、いったいどうしたんですか?



ニーナは声の主がモモだったので、安心して魔王討伐の経緯いきさつと自分がいま怪我をしていることなどを話した。


それは、たいへんだったわね。  お腹も減っているのでしょう?


そう言うとモモは、貝のネックレスを口にあて軽く息を吹いた。


その貝は人間の耳では聞こえない音域で、空気を振動させる。


ニーナにもかろうじて聞こえる超音波だ。



その音が鳴り終わるや否や、あたりの海面がザワザワし始める。


ニーナには、それがこの浜辺に一斉に向かって来る人魚たちであることが直ぐに分かった。


一度、海賊の宝物を見に来た時に人魚達に囲まれたことがあったため、少し怖かったが今度はモモが一緒だ。


海面から人魚達が顔を出すとモモが二人の食事を用意しなさいと命じた。



モモが食事の仕度を命じてから20分も経たないうちに、たくさんの食材が山のように浜辺に集まった。


そして海の中から、いままでニーナが見たこともない半魚人達が調理器具を持ってサバザバと現れた。


彼らは、うちの料理人たちなの。  見た目はよくないけど料理の腕は確かよ。


半魚人たちは、人魚らが集めてきた食材を使って、黙々と調理を始めた。


しばらくすると、浜辺に美味しそうな匂いが立ち込めて来る。


グゥーー


ニーナのお腹が鳴った。


やだ、恥ずかしい。  ニーナは顔を赤くする。



小さなテーブルが波打ち際に用意され、完成した料理から並び始める。


さぁ、ニーナさん、どうぞ召し上がってください。


ウミガメのスープ、海藻サラダ、アワビの蒸焼き、白身魚のソテー・・


次から次へ、ご馳走が並ぶ。


ニーナは数日ぶりの食事のため、胃の負担にならないように、それらをゆっくりと食べた。



ああ、とても美味しかったです。  モモさん、ありがとう。  元気が出ました。


それは、よかったわ。



疲れが取れるまで、ゆっくり休んでいてください。 


魔王がいる国までは、わたし達が送って差し上げます。


ほんとうですか、助かります。


モモの思わぬ申し出に、ニーナは喜んだ。



でも、あの魔王と戦うなんて、みなさん凄いですね。 


実は、わたし達人魚族もあの魔王には、たいへん苦しめられているのです。


そうだ!  ニーナさんにこれを差し上げます。


そう言ってモモは自分の腕輪を外し、ニーナに手渡した。


その腕輪には、強い魔力が込められています。  ニーナさんに危険が及んだ時にきっと役に立つと思いますよ。


えっ、そんなに凄い物をいただいてもよろしいのでしょうか?


遠慮はいりませんよ。 同じものは、まだたくさん持っていますから。


何から何までお世話になってしまって、本当にありがとうございます。



こうしてニーナは、モモが手配してくれた大亀アーケロンに乗って、仲間のいる魔王城を目指した。

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