第152話 ◆ツリーリング(バウムクーヘン)
◆ツリーリング
シルフはお行儀がよいので、葵さんとあたしが話している間、パンケーキに手を付けず待っていた。
早よ食べりー っと葵さんが言うまで、あたしはまったく気が付かなかった。
お腹が空いていたのに、ごめんねシルフ。
女子はいったん話しだすとずうっと止まらなくなるんだよ。 電話なんか平気で2時間くらいは話してたし。
正直、こっちの世界に電話が無くてよかったと思う。
葵さんに次に来た時も、また必ず寄るからねと言ってお店を後にした。
・・・
ちょっと町を散策しようと出かけて来ただけなのに、まりあ先輩に続いて自分が暮らしていた世界からこちらへ飛ばされた人に偶然にも遇ってしまった。
これは思わぬ収穫だった。 しかも、葵さんはこっちの世界の人と結婚していて、もう帰る気はないそうだ。
まりあ先輩も女王さまにまで昇り詰めているし、やっぱり本音は帰らない気持ちの方が強いのかも知れない。
あたしも、まだ記憶が曖昧なこともあるのだと思うけど、だんだんこっちの世界で一生暮らしてもいいと思い始めている。
だって、シルフもメイアも可愛いし、何と言ってもニーナは自分の娘だ。
それに、毎日いろいろ予期せぬ事が起きて退屈しないし、学校や塾とゲームの繰り返しの生活よりも断然楽しい。
・・・
そろそろ、モッフルダフの手続きも終わる頃だし、船まで帰ることにする。
途中のお店でみんなへのお土産にバウムクーヘンによく似たお菓子を買った。
お菓子といえ、あたし達を入れて10人分で結構重い。
シルフを一人と数えるか悩むけどメイアが二人分じゃ足りないかもしれない。
シルフはお腹がいっぱいになったのか、お菓子を買っているときから、ぼぉーっとしている。
シルフ、なんしようと?
葵さんの真似をして、方言を使ってみたら上手く変換されないようで、シルフが?顔になったのがおかしい。
いっちょんわからん?
ならば、てれてれ行くけん。
どうやら、からかわれているらしいと気が付いたシルフがプンスカ怒り始めたので、このくらいにしておこう。
あたしも方言は、たくさん知らないし、使い方が合っていないかもだし。
・・・
船に戻ると、アリシアが黙って置いて行かれたことを怒って抗議にやって来た。
こいつは、7歳のくせに頭が切れるので面倒くさい。
なので、早速買って来たバウムクーヘン似のお菓子を渡して、みんなの分に切り分けてと頼んだ。
すると、わぁ、良い匂いーー。 セレネ、これは何て言うお菓子? と聞いてくる。
うわっ、めんどくさっ! 分からないし、もうバウムクーヘンでいいや。
それはねぇ、バウムクーヘンっていうお菓子だよ。
へぇー 木を切った跡の年輪みたいだね~。
そ、そうだね~。
すると、ちょうどモッフルダフが部屋に入ってくるなり、
おや、珍しい。 ツリーリングじゃないですか。 どこで売ってたんですか?
へぇ・・ このお菓子って、ツリーリングって言うんだ? と言ってから、しまったと思ったが、もう遅い。
セレネーーー! なによ、いい加減なこと教えて!
まっ、まった。 あたしが住んでた所では、バウムクーヘンって言ってたんだよ。 ほんとうだよ!
でも、こっちの言い方で教えてくれないと、次に買いに行くときに困るじゃないの!
あーー ハイハイ おっしゃるとおりです。 ごめんなさい。
せっかくお土産を買って来たのに、なんで誤らなくっちゃいけないんだよ! ←心の中の声
この後、コリン君に紅茶を淹れてもらって、みんなでツリーリングをウマウマ言いながら食べた。
葵さんならきっと、 ばり、うまかー っていうんだろうな。
方言って、やっぱりなんだかいいなぁ・・・
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