第133話 ◆人魚のモモ
◆人魚のモモ
船は波静かな海をゆっくり進む。
あたしはメイアがいなくなった喪失感で、何もやる気にならないでいる。
モッフルダフが心配して声をかけてくるが、あたしは膝を抱えて、ただイジイジしている。
そんなあたしを見て、モッフルダフが顔を覗き込んで来るが、鬱陶しくて無言で船室に引きこもった。
モッフルダフはメイアがドラゴンの里から帰って来なかったのを自分のせいだと思っていない。
なので、あたしは少し悔しいのだ。
ドラゴンの里に残ったのはメイアの意思なので仕方がないのだけれど、きっかけを作ったのはモッフルダフじゃないか。
ニーナもシルフもアリシアも可愛いのだけれど、あたしが愛した幼女メイアはもう居ない。
心に穴が開いた状態は、自分が思ったよりも長い間続いている。
自分でも、これじゃダメだとは思っているが、船の上では気晴らしになるようなこともない。
・・・
出航して数日が経ったある日、船の手すりに掴まってだだっ広い海をボーっと眺めていたら、海面を何かが撥ねた。
なんだろう、イルカくらいの大きさだったような・・・
こっちの世界の海には、想像も付かないような生き物がいっぱいいる。
あたしは、久しぶり興味が湧いて、海面をじっと見つめていた。
バシャッ
あっ、 また撥ねた!
あれは、人魚だ!
あたしは初めて見る本物の人魚に、少し興奮し始めた。
もっとよく見たい。
おーい もっと近くにおいでよーーー
無駄とわかっていても、呼んでみたくなる衝動が抑えきれない。
おーい
おーい
何回も呼んでみたが、そのあと人魚は姿を見せなかった。
あたしは次の日から、ずっと人魚が現れないか一日中、海を眺めていた。
すると5日目に、また船の舷側げんそくに人魚が現れたのだ。
しかも、こんどはかなり近くだ。
人魚の体も顔もはっきり見える。
こ、これは・・・ か、カワイイ・・・
あたしが人魚に手を振ると向こうも笑って手を振る。
あたしは、猛ダッシュでモッフルダフのいる操舵室へ向かった。
も、モッフルダフ! 人魚が居るの。 お願いだから船を止めて。 少しの間でいいから。
あたしが飛び込んで来たので、モッフルダフは少し驚いていたけど、ちょっと元気になったあたしを見て快く船を止めてくれた。
船が停船すると人魚は、船縁ふなべりに近づいて来た。
もう真下に居る。
ねぇ、言葉は分かるの?
ええ、分かります。
やった! 人魚と話せる。
あたしはセレネっていうの。 あなたは?
わたしは、モモ。 人魚族のモモです。
いつの間にか、ニーナもシルフもアリシアもあたしの隣に来て人魚を見ている。
もしかして、ずっとついて来たの?
いいえ。 ちょうど、おじい様のところに用事があって方角が同じだったの。
話しを聞くと休みながら泳いで来たらしいのだけれど、人魚が泳ぐスピードが速いので直ぐに船に追いついてしまうらしい。
フィアスもゆっくりとはいえ、かなりのスピードが出ているので、人魚が泳ぐ速度はものすごい早さなのだろう。
あたし、モモちゃんともっと話がしたいな。
すると、モモちゃんは船の上に上げてくれれば、お話ししてもいいと言ってくれた。
その時のあたしの顔はパァーーっと輝いていたと思う。
急いでモッフルダフにそのことを言いに行くと、最初は良い顔をしなかった。
あとで分かったのだけど、人魚族はこの海の大半を支配していて、交易をする際には年単位で人魚族の許可を取っているらしい。
許可は商船保有者の組合ごとに行っていて、許可を貰うのには結構な金額|(現物取引もあり)を払っているらしい。
平たく言えば、海賊や水軍みたいなものなのだろう。
気付かなかったけど、船のマストには許可証である、ブルーの旗が掲げてあった。
なるほど、旗の真ん中には、人魚の姿が描かれている。
あたしが永遠粘るので、根負けしたモッフルダフが船縁ふなべりから網を降ろしてくれた。
モモちゃんが網の上に乗ったのを確認して、あたしとニーナとアリシアでロープを引っ張って甲板に引き上げた。
モモちゃんの髪は金髪で、肌の色は意外と白い。 胸はけっこう大きくて美乳だ。
全員女だから気にはならない。 リアムがいなくてほんとうに残念じゃなかった、良かったと思う。
瞳は大きくてくりっとしている。 例えるなら少女漫画に出てくる女の子みたいだ。
モモちゃんを囲んでみんなで女子トークタイムである。
モモちゃんからは、この世界の海の不思議なことをたくさん、たくさん聞いた。
モモちゃんは、みんなの事をとても気に入ってくれて、友達の証しとして自分が首にかけていた貝でできたネックレスをあたしの首にかけてくれた。
名残惜しかったけど、そろそろお肌が渇いて来たので海に戻るねと言って、モモちゃんは船縁から尾ヒレを使って器用にジャンプし、海の中へ消えていった。
機会があれば、また会えるだろう。
後の航海で、あたしはモモちゃんに助けられることになるが、この時はそんなことは知る由もなかった。
実はモモちゃんのお父様は、人魚族の王様だった。 あたしは本当の人魚姫を間近で見てしまったのだった。
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