第131話 ◆ドラゴンの仲間たち

◆ドラゴンの仲間たち


ドラゴンの里に近づくに連れ、メイアは誰かに呼ばれているような感じがどんどん大きくなっていった。


なんだか、気持ちがソワソワして落ち着かない。


しかもその呼ぶ声は徐々に数を増している。


馬車が停車場に着くや否や、セレネの膝から飛び出し声のする方へ駆けだした。


自分を呼ぶ声は、もう間近に聞こえる。


それは自分がそのまま理解できる言葉、ドラゴンの言葉だ。


仲間が居る。  それもたくさんだ。  


メイアはいつの間にかドラゴンの姿になって、空を飛んでいた。


右前方に切り立った断崖が連なっている。  ドラゴンが飛び立つのに適した場所だ。


みんなは、あそこに居るのに違いない。


メイアは、断崖を目指して体を右にひねった。



いたっ!


メイアの目が断崖に並んだドラゴン達を捉える。


グォーーーーー


メイアは嬉しくなって、低く長く吠えた。


その声に反応して、崖に並んでいたドラゴンが、一斉に飛び立つ。


ドラゴンの里というだけのことはあって、その数は50体ほどだろうか。


メイアは、その輪の中心に飛び込み、まるで子犬がじゃれるかのように周りのドラゴンと触れ合った。


・・・



あたしは馬車を降りて、馭者が教えてくれた方角へ向かって歩き始めた。


ここは、あたしがこっちの世界で最初に目覚めた場所に似ている。


広い草原が広がり、そこに何本かの細い道が放射線状に走っている。


あたしが歩いている道の先には、ドラゴンの谷で見たような切り立った山が聳そびえ立っている。


きっとメイアは、あそこに向かったのだ。


1時間近く歩いただろうか、山の上空にたくさんのドラゴンが飛んでいるのが小さく見える。


あの中にメイアがいるのだろうか?


更に1時間ほど歩き、ようやくドラゴンたちの姿がはっきり分かる所までやって来た。


もう、今日中には帰れない時間だ。



上空を仰げば、40から50体ほどがクルクルと輪を描きながら仲良さそうに飛んでいる。


メイアーーー!


あたしは、空に向かって大きな声でメイアを呼んだ。


だが、ドラゴンたちに変化はない。  あの輪の中にはメイアは居ないのだろうか?


メイアーーー!  ママのところに戻っておいでーーーー!


メイアーーー!


何度呼んでも、どのドラゴンも反応しない。 メイアの聴力は半端ないくらい良いので、あたしの声が届かないわけはない。


あたしは、どうしたら良いのか困り果ててしまった。


しばらく草原に座ってドラゴンたちを眺めていたが、いったん停車場まで引き返すことにした。


日が暮れるまでに、安全な場所まで戻っていなければならない。


初めて来た場所なので、ここが安全なのか分からないからだ。


また、大蛇でもでたら、こっちの命が危ない。


あたしは戻る途中で、メイアはもう帰ってこないかも知れないと思い始めていた。


もし、あのドラゴンたちの中にメイアが居て、あたしが呼んでも反応しないならば、あたしより仲間たちと一緒に居る方が良いということだ。


明日また此処に来てメイアを呼んでも戻ってこなければ、ここに居るドラゴンたちと一緒に暮らす方がメイアにとっても良いのだろう。


そうして、もう少し大きくなったら、あの中のドラゴンのイケメンを見つけて結婚し、子どもを作って暮らすのがメイアにとっての幸せかもしれない。


あたしは、ちょっと悲しくなったけど、これはメイアが決めることだと心の中で強く思うことで、なんとか気持ちを抑えた。


なんだか娘を嫁に送り出す家族の気持ちがわかったような気がした。


・・・


あたしは、停車場のベンチで一夜を過ごし、朝一番で同じ場所へ向かった。


昨日よりもう少しだけ、山に近づき大きな声で何度もメイアを呼んでみたけど、メイアは戻って来なかった。


それでも諦めきれず、お昼過ぎまで同じ場所に留まり、何度か呼んでみたけれど結果は同じだった。



あたしは停車場へ戻るまでの間、悲しくてわんわん泣きながら歩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る