第111話 ◆ララノア(外伝)

◆ララノア(外伝)


人里離れたエルフの谷に、ひときわ美しい娘が居るとの噂が王都中に広まりつつあった。


噂の主は、狩人の若者だった。


その若者は獲物の大鹿を追って人が決して入ってはならない、エルフ達が暮らす谷に迷い込んだのだった。


そして谷の奥深くにある小さな滝が水源の泉で、水浴びをしていたララノアというエルフの娘を偶然見つけた。


そのあまりの美しさに、しばし呆然と立ち尽くしていたところ、ララノアに気づかれてしまった。


エルフ達は、生まれながらにある程度の魔力を持っているが、鍛錬によりその威力を増すものも多くいる。


ララノアは、エルフ一族の長おさの孫娘で、その魔力の強さは右に出るものがいなかった。


ララノアは侵入者の若者を見つけると、その体を石に変える魔法を放った。


しかし、若者も狩人であり、素早く身を翻してその魔法の光を避けた。


ただ、左手を魔光が僅かに掠めたため、左手から石化がじわじわと始まった。


若者は、恐怖のあまり泣いてララノアに許しを請うた。


ララノアが若者に近づき、よく見れば若者は凛々しく美しい顔立ちをしているではないか。


ララノアは、エルフ族以外の男を初めて見たこともあり、俄かに若者に対し興味を覚えた。


辺りにエルフ族の者がいないことを確認すると、若者の石化魔法を解き、男に話しかけた。


あなたは、どこからやって来たのですか?


魔法が解け、落ち着きを取り戻した男は、ララノアの問いに答える。


鉱山の町にある鍛冶屋に小刀と斧を買いに来たついでに、この先の森に何か獲物がいないか探していました。


そうしたら目の前に大鹿が現れ矢で射ると右足に当たったので、あとをつけて来たらこの泉を見つけたのです。


そして、あなたが水浴びをされていた。  いけないとは思ったのですが、あまりの美しさに見とれてしまいました。


なんとお詫びしたらいいのか・・・


エルフ族は男の数が圧倒的に少ない。 男は100人に一人生まれるかくらいの確立なのだ。


そして適齢期の若い男となると里に数人しかいない。


しかもララノアは長の孫娘であり、その美貌もあって敷居が高く、みな他の女と結婚してしまっていた。


ララノアは水浴びをした姿のままであった。


二人はしばらく見つめあっていたが、若者も服を脱ぐとそのまま御合みあいた。


その時の一度の行為でララノアは、若者の子を身籠った。


いまでいうシンママである。


やがて生まれた娘は、アリシアと名付けられた。


成長したアリシアは、やがてセレネと運命的な出会いをすることになる。



エルフの里に人が居るわけにはいかず、若者は自分の住む村へと帰って行った。


その後、若者はララノアが忘れられず山谷を探し歩き回ったが、ララノアが忘却魔法をかけたため、二度とエルフの里に辿り着くことは叶わなかった。


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