第97話 ◆大戦争の結末

◆大戦争の結末


一度始まってしまった戦争は、そう簡単にやめられるものではない。


授業でも習ったことを思い出せば、2つの世界大戦も多くの犠牲を出して、相手方が降伏するまで続いた。

そして2つの世界大戦で、兵士と民間人の死傷者は軽く1億人を超えている。

こんな悲惨な事が、いま正にこの世界でも起きようとしていた。


隣国側も引っ込みが付かなくなって、正規軍を続々と送り込んで来ていたし、女王軍も新型兵器を配備して備えを強化した。

国境で両軍が対峙している箇所は3箇所あるが、そのほかの国境部分は険しい山脈が横たわっているため道すらない。


陸地の戦闘以外は、軍艦による海戦と飛行船による爆撃戦が想定される。

女王軍は海洋大国を謳っている国だけの事はあり、軍艦の多さは圧倒的で海からの攻撃では負けないだろう。

対する敵国側は飛行船の数が女王軍より若干多く、また大きさで言えば超ド級の最新鋭機2隻が竣工したばかりだった。

女王軍の新型飛行船は、まだ建造途中にあり、完成まで急いでも半月はかかる状態で、戦争が本格的に始まってしまった場合は、戦力にはならないだろう。


この大陸には7つの王国があり、3つの同盟によってお互い対立する国々を牽制し合っている。

つまり、敵国には同盟国が二か国あり、女王さまの国にも同盟国が一つある。

同盟国が戦争になれば、同盟を結んでいる国も当然援軍を出すので、戦争の規模や範囲も拡大して行くのだ。

そして、2大同盟国の戦争と隙あらば弱体化した敗戦国を吸収しようとする傍観国同盟の非常に嫌な三つ巴の構図となりつつあった。


・・・


戦いは、国どうしをつなぐ3つある街道のうちの一つで口火が切られた。

ここは地形的に女王軍側に利があり楽勝と思われたが、飛行船部隊が女王軍を爆撃するという作戦が功を奏し、敵対国側が勝利した。

女王軍は5kmほど後退し、更なる爆撃に備えて森の中に戦列を広げ、もしもの際の被害を減らすようにした。


初戦の状況は、すぐさま城へ届けられ、女王さまと陸海空の司令官が対策に追われた。


この日、たまたまお城に様子を見に来ていたあたし達は敵国の飛行船部隊を叩くべく、女王さまと司令官殿達に申し出て許可をもらった。

その足で直ぐにメイアにドラゴンの姿に戻ってもらい、あたしはシルフを連れてお城の庭からメイアに乗って戦場を目指した。


・・・

戦場の近くまで来ると遠くから敵国の飛行船隊が飛んでくるのを目の良いメイアが捕捉したため、味方への爆撃が始まる前に撃墜することにした。


メイア、シルフ行くよ!  まりあ先輩を助けるんだ。


メイアは、飛行船より高い位置を目指して、いっきに急上昇する。

雲の上に出ると、敵飛行船に補足されないように近づき、十分接近したところで上空から旋回しながら、飛行船隊に向けてメイアが火炎を吐く。


飛行船は船体を軽く作るためゆえの最小限の骨格と薄い外壁、そして浮力を得るためのヘリウムと水素の混合ガスが機体の大半を占める。

したがって、メイアやシルフの火炎攻撃で、いとも簡単に燃え上ってしまうのだ。


敵国は初戦で優位に立てたため、この勢いで一気に女王軍を壊滅させんと飛行船の全勢力を投入してきていた。

まだ飛行機が発明されていないこの世界では、防戦ができない飛行船は爆弾を落とすだけの兵器であり、この広い空はまだドラゴンの天下である。


メイアは、敵飛行船を次から次へと火達磨ひだるまにして行った。

船体に少しでも火が点くとあっと言う間に全体に燃え広がり、積んでいた爆弾が誘爆を始める。

シルフも小型の飛行船を4隻ほど撃墜した。


こうして、1時間あまりで敵国の飛行船隊は、メイアとシルフの活躍によりあっけなく全滅したのだった。


・・・

同じころ、隣国沖でも女王軍の大艦隊が敵国の軍艦の大半を沈め、そのままの勢いで上陸して首都の制圧に成功した。


敵陸軍も自軍を援護できるだけの空と海の戦力を失った事を知り戦意を喪失し、隣国国王は無条件降伏の要求を飲まざるを得なかった。

これによって戦争は早期に終結したのだが、女王さまは隣国を占領したり併合することをしなかった。


理由は二つある。  一つは、隣国を占領下に置くということは、そのために莫大な兵士の常駐や費用がかかることで自国の国力が衰えること。

もう一つは、占領された側の国民の不平不満やレジスタンス活動の対応が厄介なことだ。


よって、女王さまは自国の戦費を隣国に負担させることと、交易に関する条件を5年間凍結することの2点のみで戦争に終止符を打たせた。


この戦争は実質3日間で終わりを告げ、あたし達は、今回の功績により女王さま(まりあ先輩)から船を1隻借り受けた。 


そしてその船に乗ってモッフルダフの後を追い、再び冒険の旅へ出発したのだった。

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