第92話 ◆上陸
◆上陸
どんなに長い航海も必ず終わりがやって来る。
嵐には何回も遭遇したし、見たこともないような巨大海洋生物にも幾度となく襲われた。
長い船上暮らしで、この世界の弱い太陽光でも肌をこんがり焼かれて、原住民とあだ名がついた。
シルフとメイアが電気ウナギのように発電できるのが分かって、スマホに充電ができたので、お気に入りの音楽も聴いた。
シルフとメイアのカワイイ写真もたくさん撮った。 電話はかかって来ないけど、三人で撮った写真を待ち受け画面にした。 少し悲しくなって泣いたけど。
そして、いよいよ大陸の山々が水平線の彼方に浮かんで見えるところまで、あたし達はやって来た。
もう少し陸地に近づくと、上陸を許可してもらうための検疫検査官を乗せた船がやってくるらしい。
あと数日で、いよいよ大陸の土を踏むことができるのだ。
だが、これから人生最大の難関が待ち受けていると思うと、やっと上陸できるという喜びも相殺されてしまう。
もしも、あたしのシナリオ通りに事が運ばなければ、あたしは死刑になってしまうかも知れないのだ。
エリージャ伯爵様なら、なんとかなったかもしれないけど、この国の王様はどんな人か分からない。
スマホは機種変更したので、手元に2台ある。 当然、古い方を献上品にするつもりだ。
献上するスマホには、ダウンロードしたJKイチオシのアプリも沢山入っている。
これとあたしの趣味の音楽(100曲はある)とカメラ機能で、アピールしてみたらこの困難を乗り切れるだろうか。
もし、スマホを魔法のアイテムとして気に入ってもらえなければ、磔はりつけとか火炙りとか一生牢獄生活とか・・・
あたしがここ数日、暗い顔|(おそらく背後には人魂が飛んでいた)をしているので、誰も近寄って来ない。
まあ、下手に気を使われても落ち込むだけなので、あたしもその方がよかったのだけれど。
そして2日が経ち、検疫官の検査を無事終えて入国審査もパスしたあたし達は、この大陸一大きな国の土を踏んだ。
ただし、責任者のモッフルダフは、保安局へ出頭するようにと言われ、その足で保安局の建物へ向かった。
あたしも一緒について行くと言ったのだけど、呼ばれていない者が入れるわけは無く、外でモッフルダフが出てくるまで待った。
要件は案の定、海龍の死体が見つかったことに対しての取り調べで、モッフルダフは実際に起きた事を包み隠さずに話したらしい。
で、明日の午後にあたしは、一人で保安局へ来るようにと呼び出しを受けた。
その日の夜、みんなで久しぶりに豪華なレストランに行き、この国ならではの珍しい食べ物をたくさん注文した。
空気を読めないエイミーが、冗談で最後の晩餐みたいなことを言って、リアムからこっぴどく怒られていた。
悪気が無いのは分かっているけど、流石のあたしも結構落ち込んだ。
目の前のご馳走も、なんの味も感じられない。
自分が招いたことなので仕方がないのだけれども、悲しくて心が張り裂けそうだった。
次の日の午後、あたしは神妙な顔で保安局に出頭した。
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