第87話 ◆航海と後悔

第四部


◆航海と後悔


港を出航してから しばらくの間、海は穏やかだった。

船旅は何もすることがなく退屈そのもので、2日も経たないうちにメイアが暴れ出す。

仕方が無いので、船の甲板で遊んであげることにした。


船の上は風も吹いているし、波のせいで足元もふらつくため、何をして遊ぶことができるか悩む。

その間にもパワーを持て余しているメイアは、じっとしてられず甲板の上をただただ走り回っている。


運搬船の長さは、100mほどあるけど帆柱や操舵室などもあって、思ったより遊べるスペースが少ない。

おまけに船は横幅があまりないので、ボールなどを使うとすぐに海に落ちてしまうのだ。


あれこれ考えている間にとうとうメイアが我慢できなくなったのか、勝手にフィアスの背中に飛び移って駆けて行ってしまった。

あっ!  こらっ。  待てよメイアーーー!!


船とフィアスの間は20mくらいあいていて、距離も高さも人間が飛び移ることが出来ないのは明らかだ。

なのであたしは、メイアが逃走するのをただ見ているしかなかった。

あたしだって命は惜しい。


こっちの世界の海の中には、どんな生き物が生息しているか見当もつかない。

もし海に落ちでもしたら、鮫の餌どころではないだろう。


メイアが一人で遊んでくれるなら、少し放っておこうと思う。 メイアなら人食い植物くらい、なんてことは無いだろう。

もしかしたら幼稚園児のママさん達ってこんな感じなのかもしれないな。 (あえて言う、あたしの成りたい職業No1は保育士だ)


潮風が心地よいので、甲板に長椅子を持ち出して昼寝をして時間をつぶすことにする。

この世界の太陽の光は、あまり強くないので日焼けは気にしなくても良い。


水着は持っていないので、ブラとショーツ姿で日光浴を兼ね1、2時間ぐっすり寝よう!


どうせ船尾では、エイミーとリアムが イチャイチャ してるはずなので、邪魔をしては悪いし丁度いいだろう。


・・・

・・


ガタ ガタタッ


すっかり良い気持ちで寝ていたところ、船が大きく揺れて椅子から転げ落ちてしまった。


イタタタ・・・


いったい何事?

慌てて船縁ふなべりに駆け寄り海を見てみれば、少し前の穏やかな海とは打って変わって、波は高くうねりを増していた。


あちゃーー  これはヤバイな~。  あたしは、どちらかというと三半規管が弱いらしく、すぐに乗り物酔をいしてしまう。

大陸を目指すのには船と飛行船の二択だったけど、飛行船は運賃の高さと安全性の面で諦めざるを得なかったのだ。

甲板上には、既に波しぶきも飛んで来ているし、酔わない前に大急ぎで船室に撤収する。


港で待機していた時に、小学生の遠足で使っていた酔い止め用のリストバンドを思い出し、真似て作っておいた物を急いで付けてみる。

気休め程度かも知れないが、しないよりはマシだろう。


メイアが、まだ帰って来ないので、シルフに様子を見てきてもらおうと思ったけど、シルフも青い顔をしている。


シルフ、もしかして船酔いなの?

妖精に効果が有るかは分からないが、急いでシルフにも酔い止めバンドを作ってあげる。


そうだ。 シルフは、飛んでれば酔わないんじゃないのかな?  あたしはときどき自分は、天才なんじゃないかと思う。


するとシルフが、よろよろと飛んできて肩に止まって、ずっと飛び続けてたら疲れてしまうじゃないかとプンスカ怒り始めた。


あ゛ーー そうでした。 あたしがバカでした。  天才から一気にバカまで転落である。


船は益々大きく揺れ始め、シルフと二人で顔を青くし、2日目で早くも航海に出てしまったことを後悔し始めたのであった。


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