第82話 ◆大陸へ渡る方法(その2)

◆大陸へ渡る方法(その2)


パンを買った後、大鮫の目撃情報をゲットしたあたしは宿に戻り、さっそく皆を集めてどうするかを話しあった。


港にはモッフルダフの事を知っている船乗りもいたし、目撃された大きな鮫もモッフルダフの鮫に間違いない。

大鮫はモッフルダフが、この港に来るのを待っていたはずだし、うまく話しを伝えることが出来れば、大陸まで乗せて行ってもらえるかも知れない。


メイアは、自分に乗って港の周囲を空から探すのが早いよ~と、あたしの膝に乗ったまま顔を上に反らしてニッコリする。

ズキューン  あまりの可愛さに胸がキュンキュンする。  下手をすると母乳が出るかも知れない。


あたしだったら、もう少し港で聞き込みをしてみるけどねー。 探偵エイミーの意見に、なるほどと感心する。

リアムはどう?  エイミーがドヤ顔でリアムの方を見る。 


俺か? 俺なら先ずは港の管理所に行って、この港に登録されている鯨や鮫を調べてみるけどな。


それって、どういうこと?  エイミーは自分のアイデアが無視されたようで、やや不満顔だ。


今度はリアムがドヤ顔っぽくなって続ける。

港に出入りできる奴は、性質とか知能とかが一定以上の水準以上で、危険がないことが保証されているはずなんだ。

だから、モッフルダフの鮫も台帳に登録されている可能性が高い。 だから最初にその台帳を調べればいい。

登録されている奴は、ここの港の係り員なら、おそらく呼び寄せることが出来るはずだ。


どうしたら、そんなことができるの?  あたしは不思議に思って聞く。 


たしか登録するときに、固有の波長を持った笛がオーナーに渡されるんだったと思った。

それを自分の所有する鯨とか鮫に聞かせて覚えさせるんだよ。

オーナーや港の係りは、必要な時にその笛で合図すれば、そいつが笛を吹いたところまで泳いで来るってことさ。


リアムの勝ち!  シルフが余計な一言をボソッと言う。

それを聞いてメイアとエイミーはちょっぴり不機嫌な顔になった。


リアムがそれを見て、しまったという顔になったのが、ツボにハマってあたしは大きな声でケラケラ笑ってしまった。

それを見てエイミーもメイアも釣られて笑いだしてしまい、最後はみんなで大爆笑となった。


次の日、あたし達は早速、港の管理所に行ってみた。

そこで事情を説明して、台帳を見せてもらう。

台帳はかなりの厚さがあって、探すのには時間がかかりそうなので、そこはリアムとエイミーに任せ、あたし達は港を見学することにした。

なにしろ、メイアがこんなに狭い場所で長い間、おとなしくしているわけがない。


嵐が去ったこともあって、今日の海は波も穏やかで潮風が気持ちいい。

メイアが海鳥をじぃっと見てるのが気になるが、今朝もご飯をたくさん食べたので、まさかパクリとはしないだろう。


遠くに灯台が見えるので、堤防の上を歩いて近くまで行ってみることにする。

海は透明度も高く、近くはアクアマリン、遠くはコバルトブルーで、まるで天国にいるかのようだ。


こんなに景色がきれいなのに、シルフは日差しが苦手なのか、あたしの胸の中に潜り込んで顔だけ出している。

おい、シルフ。 出てこいやーー!  とどこかで聞いたようなセリフを言ってみる。

ついでに、服の上からツンツン突いてみたら、3回目に噛みつかれてしまった。


堤防をてくてく歩いて行くと少しずつ灯台が近づいて来る。

長い堤防には、釣りをしている人が何人もいて楽しそうだ。


こんなに綺麗な海だから、魚もたくさん釣れているんだろうなっと思ったら、突然メイアが繋いでいた手を振り解いて、釣り人の方に駆けて行った。


まさか・・・


慌てて追いかけて行くとメイアが釣りをしていたおじさんと何かを話してる。


しばらくすると、おじさんはニコニコしながら魚をビニール袋にたくさん入れてメイアに渡した。

なあんだ。 夕飯のおかずゲットか。 ナイスだよメイア!


メイアは嬉しそうな顔をしながら、あたしの方に向かってトコトコ駆けて来たが、途中でビニール袋を口に当て、中の魚をいっきにザラザラと飲み込んでしまった。

あ゛ーー やっぱりそうなったかぁ・・・


おじさんの傍を通り過ぎるとき、メイアの持っているビニール袋が空になっているのに、どうか気が付かないでと祈ったよ。 アーメン。


近くに来ると灯台は、もの凄く大きくみえる。  高さは、あの要塞ダンジョンより高いかも知れない。

残念だけど灯台の中には入れないようだったので、あたし達は灯台の周りをグルリと一回りして帰ることにした。


灯台の根本は直径が30mくらいありそうだ。

その周りを灯台の壁を手で触りながら、ゆっくり歩く。


!?!?

半周ほど進んだところ、突然目の前に触手人間が立っていて、死ぬほど驚く。

触手人間は、長い触手を海の中に伸ばして、ちょうど魚を獲っているところだった。

触手には、見たことが無いような大きな魚が捕まっていて、ビチビチと撥ねている。


触手人間には助けてもらって感謝はしているのだけれど、触手に触れないと会話ができないし、申し訳わけないけどやっぱり生理的にNGだ。

あたしは、かるく会釈して通り過ぎようとしたのだけれど、またもやメイアが触手人間に近づいていき、何かを話している。


すると触手人間は、触手で捕まえていた魚をメイアが大きくあ~んと開けた口に押し込んだ。

まるで、雛に餌をあげる親鳥みたいだった。

なんだかキモカワイイという言葉が浮かんで来た。  おそらくあっちの世界で流行っていたのだろう?


満足そうなメイアの手を引いて、あたし達は再び管理所に向かって歩き始めた。

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