第57話 ◆卓球大会

◆卓球大会


宿屋に帰り着くと荷車に積んであった武器類を倉庫に仕舞って施錠し、宝物の木箱を持って自分たちの部屋へ向かった。


この時、陽はもうとっくに暮れて辺りは既に真っ暗だった。 

そして、あたし達は宝箱を運んでいる所を、誰かに見られていたことには少しも気づいていなかったのだった。


翌日は、朝から土砂降りの雨だった。

この日はダンジョンの2層を制圧する予定だったが、朝食の時にみんなと相談して実行は1日先送りすることになった。

1日とは言え間あいだを置くことは、1層に魔物が戻って来る可能性があるので気にはなったけど、この雨の中を強行して体調を崩す方が問題だと考えた。


メイアは、ダンジョンを後にする際に幼女姿に変化へんげしていたが、髪もショートからセミロングになっていて、やっぱり女の子なんだなと思った。

ドラゴンの姿は、神々しさと勇壮さが感じられて好きなのだが、あたし的には幼女姿とのギャップがかなり萌える。

幼女姿のメイアと遊ぶのは、ほんとうに楽しい。 幼稚園の保母さんは、あたしがなりたい職業のひとつだ。


今日は雨で1日することが無いので、シルフの洋服を作ってあげようと思い、どんな服がいいか聞いてみる。

メイアも寄って来て、あたしが言葉で言ったイメージの服に変化へんげして見せてくれる。

あたしにもこの能力があれば、凄く便利だし洋服代がかからなくて助かるのになあと羨ましく思う。


布地は鉱山の町の商店で自分の分も含め、数着分を購入しておいたので、どの生地で仕立てるかシルフに選んでもらう。

あたし的には、花柄が可愛くてよいと思ったのだけれど、シルフは無地の薄いブルーの生地が気に入ったようだ。

この生地だけだと体が透けてしまってエロ可愛いので、裏地に熱に強いシリカ繊維をチョイスしてみる。

今日1日で作るのは無理だけど、ダンジョンを完全攻略するまでには、完成させる予定だ。


午後になっても雨は、降りやまない。

裁縫ばかりしていると、メイアとシルフの機嫌が悪くなるので、そろそろ中断して遊んであげよう。

あたし達が泊まっている宿屋は、要塞廃墟に魔物が住み始めてから客足が遠のいていて、今日も宿泊客は少ない。

確かあたし達以外では、行商人と傭兵らしき若い男が二人だけ泊まっているようだった。


客が少ないので、宿屋の主人に頼んで1階の広間を貸してもらい、広間の大きいテーブルを使って卓球で遊ぶことにする。

ネットもラケットもボールもないため代用品を探す。

ただしネットの代わりを見つけるのは無理そうなので、テーブルの真ん中に1本のロープを置いた。

ラケットは、暖炉用の薪を短刀で削って作ったが、オリハルコンの剣は素晴らしい切れ味で、あっという間に完成した。


一番厄介だったのは、卓球のボールだ。 小さくて軽くて良く弾むボールなど都合よくあるわけがない。

あれこれ悩んでいるとメイアが自分なら作れると言うので卓球のボールの特徴を伝えると、鱗を1枚掻き取り変化へんげの要領で玉を作り出した。

こ、これは・・・ 直径40ミリの規格ボールかと見紛うばかりの見事なボールだ!  色もオレンジになってるし!

手に取ってテーブルの上で弾ませると丁度いい具合に弾む。  このメイアの新しい能力を3Dプリンタモドキと名付けよう!


さっそく、遊び方を二人に教えてゲームを開始する。


最初は、あたしVSメイアで勝負だ!  初めて卓球をする二人に、あたしが負けるわけがない!

メイアは卓球台テーブルの高さに合わせて、小学4年生くらいに変化し直している。 メイア、おまえやる気満々だな。

卓球は初めてだしサーブはどうせ入らないだろうから、メイアからやらせてあげる。


しかしその考えが間違いだった。 あたしの相手は少女の姿をしたドラゴンであることを失念していた。

はっきり言うと、ボールが見えなかった。 ボールの素材がドラゴンの鱗でなかったら、おそらくボールは真っ二つになっていただろう。

テーブルにボールの跡がくっきり付いたことは、宿屋の主人には黙っておこう。


この実力差では絶対に勝てないので、ルールをこちらの都合の良いように変更しよう。 どうせ初めてだし分からないだろう。

メイア。 卓球が面白いのは、ラリーなんだ。  だから、なるべく相手が打ち返しやすいボールを打つんだよ。 わかる?


メイアは首をかしげていたが、次のサーブはゆるゆる玉だった。


チャ~ンス!

あたしは、容赦なくフルパワーで打ち返す。

が、人間とは桁違いの運動能力を持ったドラゴンにこの程度のスマッシュが通用するはずがなかった。

メイアの返球は見事にコーナーぎりぎりに決まる。  あたしの戦意は、このたった一球で粉々に砕け散った。


あ゛ーー  つぎは、メイアVSシルフね!


シルフは目をキラキラさせながらラケットを・・・持てなかった。

ちょっと待ってて!  あたしは、急いでシルフ用の小さいラケットを作ってあげた。

これでもちょっと重たいかも。  持てるかな?

シルフはラケットを抱きかかえるように持って、やる気満々だ。  フンフンと鼻息も荒い。


このあとの対戦は、すさまじいものだった。 

何しろ弾が見えない。 メイアもシルフも止まった姿は目に捉えられない。 すべて黒い影に見える。

どちらもミスをしない状態が20分続いたところで、あたしは試合中止を宣言した。


ハイハイ、いい運動になったかな?  もうテーブルは弁償だね~。 

ボコボコになったテーブルを見て深いため息が出る。 

トホホ・・  これでも手加減して打ってるんだろうなぁ・・・


あたしが、疲れてガックリしているのを広間の入口から、傭兵が笑いながら覗いているのに気づく。


もしかしたらこいつになら、勝てるかも知れない。

あたしは傭兵に見られないように下を向き、ニヤリと笑った。

そして実力差があり過ぎて、フラストレーションが溜まりに溜まっていた、あたしは傭兵に向かって歩きだしていた。


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