第30話 ◆鮫潜る!
◆鮫潜る!
脱皮によって、シルフは元通り元気になった。 いや、確実にパワーアップしている。
いつまでも裸のままでいさせるのも、可哀そうなのでボロボロのハンカチーフを裁断し直し、タンクトップ風の上着とパレオのようなものを作ってあげた。
シルフは、たいそう喜んで、何回もほっぺにキスしてくれた。 これでシルフは確実にあたしの嫁になった。
こんど暇を見つけてパンツも作ってあげよう・・・ でもあたしは裁縫は苦手だ。
天気も良く、モッフルダフからもらったボールで、シルフとメイアとでビーチバレーごっこをして遊んでいると突然地面がグラグラと揺れだした。
うわっ、地震? 一瞬パニクルがここは海の上なのを思い出す。
しばらくすると、モッフルダフが慌てて駆け寄って来た。
たいへん、たいへん。 天敵が出た! 早く逃げて!
モッフルダフさん、天敵って何?
天敵は、天敵なんだ。 ああーー 積み荷がダメになるーーー
何が何だか分からずに、きょとんとしていると、わたしたちの周りをグルグル回りながら逃げろ逃げろと騒ぐ。
その勢いにあまりにびっくりして、よろけた拍子にうっかりモッフルダフの体の端(片方の糸)を踏んずけてしまったらしい。
モッフルダフは、そのまま倉庫の方へ駆けていったが、気が付けば糸がクルクルとほどけていた。
つまり、毛糸玉が小さくなっていくような感じで、モッフルダフの体があっと言う間に一本の糸になって消滅してしまった。
あっけにとられていると、また鮫の背中が大きくうねる。 今度は海水が大きな波となって押し寄せてきた。
慌てて、傍に置いておいた鞄を手にした途端、目の前に大きな波が来た。
完全に飲み込まれると思った瞬間、メイアがあたしを咥えて飛び立った。 間一髪だった。
シルフも新しくなった羽でメイアのスピードについてくる。
上空から見下ろしてみれば、巨大鮫が大暴れしている。 さらによく見れば、その体に巨大な吸盤が付いた触腕が巻き付いている。
天敵って、巨大烏賊? 烏賊って鮫なんか食べたっけ? 逆はありだと思うけど、この世界ではあたしの常識は通じない。
大鮫がもがき暴れる度に、巨大烏賊の全貌が徐々に見えてくる。 そしてこの烏賊の全体が見えた時、あたしは息をのんだ。
大鮫の2倍以上ある体・・・その半分は触腕と足で鮫の体には、そのすべてが巻き付いている。
触腕が鮫の胴をギリギリと締め上げて行く。 二匹の生死をかけた戦いで、辺りには大渦がいくつもできる。
大鮫はすでに反撃ができる体制には無く、巻き付いた触腕を振りほどこうと暴れながら、頭から急潜航を始めた。
今更ながら、早く逃げ出してよかったと思う。 あのまま背中に乗っていたら、今頃は海の藻屑となっていただろう。
二匹が完全に海中に消え、大き渦ができたのを眺めながら、ふと気づく。
そういえば、モッフルダフは、いったいどうなっただろう。
大鮫が海底深く潜ってしまったあと、メイアに水面すれすれに飛んでもらい、しばらく探してみたが見つからなかった。
糸の塊で出来ていたのか、とにかく不思議な人だった。
いつまでも海の上を旋回していても仕方が無いので、モッフルダフには悪いけど先を急ぐことにした。
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