第14話 グッドなニュースと

 ハロー、グロリア。

 グッドなニュースとバッドなニュースがあるんだ。

 さぁ、どっちから聞きたい?

 

 そうねショーン、もちろんグッドな方から聞きたいわ。


「仕方ないなぁ、グロリア……」

「ねぇ、さっきから何ぶつぶつ言ってんの、アンタ。きっも……」


 ラグの上に胡座をかいてローテーブルに肘をつき、山口が呆れたような視線を向ける。

 ここは私の部屋だ。

 

「それにしても高町が体調崩して早退なんてねぇ。――ほら、そのグッドだかバッドだかってニュースも全部聞いてやるから、話せ? な? とりあえず鼻かめよ。きったねぇな」

「ううぅ……。じゃ、じゃあね、グッドニュースからね……」


 私は山口から渡されたティッシュペーパーで勢いよく鼻をかみ、ふぅ、と息を吐いてから話し始めた。


「バルトさんに会いました……」

「――ん? お? まじで? すごいじゃん! やったね、高町!」

「うん。そんで、半ば強引にライブスケジュール聞いた……。とりあえず来週の土曜日。空席あるみたいだから行って来るね」

「おぉー。すごいすごい。高町、積極的ぃ~」

「でもね……」

「お? ここからがバッドニュースな?」


 そう、バッドニュースなのだ。

 そりゃあもうバッドすぎる。トゥー・バッドってやつよ。


 だって、だってさぁ……。


「バルトさん、妻子持ちかもしれない……」

「――はぁ?」


 患者さんの個人情報は口外するわけにはいかない。

 それはわかってる。

 だけれども。


「昨日、バイト先にバルトさんがお子さん連れて来た」

「うっは! マジかよ!」

「しかも、かなり大きい子ね。とりあえず、10代の女の子とだけ言っとく」

「うん、まぁ、それ以上は良いや。個情報だから」

「ありがと」


 こういう時、山口がそういうのをきちんとわきまえている子で良かったと思う。


「でね、ここから先は、個人を特定しない、あくまでもとして聞いてほしいんだけど」

「――ん? お、おう」

「お子さんと、そのお父さんの名字が違うのって、どう思う?」

「は? バルトさん、そうだったの?」

「違う! バルトさんが、とかじゃないの! 一般的に! そうだったらどう思うかって話!」

「あぁ、そういうていで話せばオッケーって思ってんのね、高町は。まぁ良いけど」

ていとか言わないで!」 

「へいへーい。……まぁ、な話しをするとさ。それなら必ずしもとは限らないと思うけど、あたしは」

「と言いますと?」


 ずずい、と顔を近付けると、山口はそれをうざったそうに手で押し返して来た。

 ちょっとちょっと、親友への扱い酷くなーいっ?


「いや、だからさ。名字が違うんでしょ? だったら、離婚して親権が奥さんの方にあるとかさ。それかもしくは、単にシングルマザーと付き合ってて、お父さん代わりって可能性もあるわけじゃんか」

「た……確かに……。賢いな、山口は」

「たぶんね、高町が馬鹿なだけだと思う」

「ちょっ……!」


 身を乗り出してみたものの、反論出来ない。

 学校の成績でならまだしも、それ以外では彼女に勝てた試しが無いのだ。


「お父さんって呼んでたの?」

「そこまでは……聞いてない。やっぱり患者さんのプライベートを探るのは気が引けて……。聞こえちゃったり、見ちゃったりしちゃうのは仕方ないけど」

「ふは。そこはやっぱり高町だよね」

「馬鹿って言いたいの?」

「違うよ。あたしはのそういうところが好きだって言ってんの」

「……ありがと、

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る