第13話 気だるげな彼女
クリニックの受付終了は18時。この辺りじゃ割と遅くまで開けている方だと思う。待合室担当の私は受付が終了したら、あとは頃合いを見計らって軽く清掃をしたら帰って良いことになっている。
受付の事務さんが何となくそわそわしだす17時50分。彼女はやってきた。
大人顔負けの気だるさを身に纏った、すらりと背の高いその少女は、初診なのか、勝手がわからずキョロキョロと辺りを見回しながら受付へと辿り着いた。
「初めてなんですけど」
そう聞こえた声は、もう落ち着いた大人の女性のようだった。制服はまだ新しく、少し大きめだ。
この辺じゃ見ない制服だけど、中学生だよね?
そうは思うものの、彼女の纏っている雰囲気は 全然中学生じゃ――少なくとも入学したての1年生じゃないんだけど!
何なら私よりもよっぽど大人っぽい……。
ていうかね。ていうかね!
すっごい美人だよ! 将来有望すぎる!
もーこの子の未来、モデルとか、そんな感じだよ!
身長だって現時点で負けてますよ、私!
いや、私が小さいだけかもだけど! ですけども!
「高町さん?」
「――ふへぇっ!?」
「問診票、お願いね」
事務さんの声で我に返る。
いけないいけない。
完全に見とれてた。
「ええと、とりあえずわかる範囲で書いてね。わからないことがあったら聞いて。私、看護師さんのお手伝いだから、遠慮しないで気軽に話しかけてくれると嬉しいです」
そう言いながらクリップボード、ボールペン、体温計を手渡すと、彼女はにこりと笑った。首を傾げて。
「ありがとうございます」
もうその仕草なんかも、どこで覚えたの? って突っ込みたくなるくらい。
良いなぁ良いなぁ。
これくらい美人だったら告白なんかしても成功率100%なんだろうな。
――と、成功率0%の私なんかはそう思っちゃうわけだけど、よくよく考えたらさ、こんな可愛い子なんだから、自分からなんて動くわけないよ。黙ってても王子様が次々現れるよ。王子様達、列に並んでキャンセル待ちですわ、こりゃ。
ほんと私には無縁の世界。
そう思って肩を落としていた時。
「――
タッチセンサー式の自動ドアが開き、少し身を屈めるようにしてガタイの良い大男が、ぬぅ、と入ってきた。
駐車場はあまり広くはないので、停めるところを探している間に患者であるお子さんの方が先に来院することは珍しくない。さすがに幼児の1人歩きは危険だけれど、小学校高学年くらいともなると、よほどの重病時以外は診察券と保険証を片手にふらりと1人でやって来るのである。
はいはい、お父さんと来たのね。オッケーオッケー。今日は珍しく患者さん少ないですからね、お父さんも気兼ねなく座っちゃってくださいね~。
なんて、いつもだったら言ってた。
でも、そんなこと言えるわけない。
だって、だってだよ?
その美少女のお父さん……バルトさんだったんだよ!
まさかの子持ち(しかも大きい)という展開に、私は愕然としたわけです。
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