EXEP「夢乃 夢子の嫉妬と羨望」
第184話
ヴィーナス・ツインタワー……。
熱狂の渦と、渇望しきった幾多の情熱が南から北上し、北の地で「成就」した聖典から早2年が経とうとしている……。
初ライブツアー前からファーストタワーの隣地を取得し、建設を進めていたセカンドタワーが竣工し「ヴィーナスタワー」という通称が改められた。
建設から竣工の間も、ヴィーラヴの地位は揺るがなかった……。
揺るがないどころか、もうわたし達には彼女らしか「縋る」選択肢がなかった。
人々は「復帰」の兆しさえ見えないシフォンの存在をとっくに忘れ、過去の「遺物」としての「彼女」の楽曲がこの世界の片隅に乱雑に棄てられた。
アイドル戦国時代も過去の話……。
ヴィーラヴを脅かそうとする「種」は、ドロシーエンタープライズが「紳士的」懐柔し、配下にする。
誰も歯向かう者など、いなかった……。
抵抗すれば「闇」へと葬られる。
高樹 舞……。
彼女は大きく「変貌」した……。
彼女をドロシーエンタープライズのグループ会社、ドロシーエンタープライズ・エンタテインメントの社長にまで「昇華」させたものは……なにか。
決して、自分から前に出る積極的な性格ではなかった「舞」の心でブレイクスルーしたものは一体……。
あの頃の彼女と、得体の知れない「自信」と「達観」しているかの様な今の舞との凄まじい落差にわたしは戸惑い、ある種の嫌悪感さえ覚える。
高校時代の舞は、わたしと同じ「匂い」がした。
何処か自分の存在を軽く扱い、嫌い、憂い、自身の気配を消そうとする。
比較的裕福な家庭環境で育った生徒が多いあの学院においても、資産家のひとり娘であった舞を誰もが羨んだ……彼女の将来にまで不安のない財力……端麗な容姿……男を操れるであろう躰……。
快活な性格ならば、間違いなくあの学院での地位は「完璧」で揺るぐ事はなかったろう。
しかし、そうはならなかった……。
あの学院のあの学年での「太陽」は決まっていた。
わたしや舞は、太陽の周りを遠慮がちに回る歪な「衛星」……。
舞に「その気」はなかった……目立たず、慎重に、慎ましく学院生活をやり過ごす……わたしには、そんな風に見えたし実際、舞は完璧なまでに卒業までそれを遂行した。
故に、わたしとは「波長」が合ったのかもしれない。
適度な交友関係……つかず離れずの「絶妙」な距離感……。
明らかに学院ヒエラルキーの最下層に「訳」あって潜んでいた舞……そして「惑星」にさえなれない、わたし……。
良くもなく、悪くもなかったわたしの学院生活での唯一の「楽しみ」であり「親友」であった舞……。
そんな関係性も、卒業を迎えあっさりと終焉した……。
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