第180話

「ふわり……」


 切ないメロディー、ストリングスに呼応し、月が柔らかく輝きを増す。




「淋しいの……」


 見上げる月が、そう語りかけている様に思えた。


 満月は佇む……その輝きで心情を察して欲しいの……と、白く輝く。


 そう……私達人類が誕生する遥か前から、あなたは空に輝き、共にこの惑星と生き、様々な変化を目の当たりにしてきた……。


 そして、この惑星に生きる生命は、あなたの影響を多大に受けている……その最たる存在が私達、人間なのだ……。


 女であれば……尚更に……。


 なのに、私達はいつの日からか空を見上げ、月を愛でる行為をやめてしまった。


 太陽、月、他の惑星さえも私達は超越したのだと傲慢になってしまい、空を眺めるという至極簡単な習慣さえも忘れる程に、魂の余裕を失い、遂に疲弊した偽人となり、同じ人間や他の生命そして、この星系や宇宙の営みの尊厳をも否定する……。


 この世界において人間は、最も厄介で生きる資格のない存在になってしまった。


 誰のせいでもない……私達人間自身が「それ」を望み、遂行してきた……。


 ならば、どう責任を果たすべきなのか……魂を蝕まれたままに、己の欲を満たす為に「発展と進化」なる偽語を都合良く用い、更に暴走してゆくのか……。


 それとも……。


 立ち止まり、空を見上げ、深く息を吸い今一度、人間はどうあるべきかを問う事ができるのか……。


 私達に……。


 本当に問い直せるのか……。


 我々に……。




 私は、自問する……。


 月が耳を澄ます……。


 雪が風にそよぐ……。




「あの時……」


「あなたがくれた……」


「白いわたあめ……」


「そっと……」


「口に含めば……」


「柔らかく……」


「溶けてゆく……」


「あなたと……」


「過ごした……」


「思い出とともに……」


「甘い残り香とともに……」




「まるで人生のよう……」


「口に含んで……」


「溶けてゆく……」


「甘く切ない香りと……」


「想いをのせて……」




「それは後悔……」


「それとも希望……」


「どっちの甘さなの……」




「教えて……」


「ねぇ……」


「誰か教えて……」




 愛人形達が、詩を紡ぐ……。


「そうね……」


 私達は「わたあめ」のようなもの……。


 ふわりと、白く実体の怪しい雲……やがて瞬時に溶けて消えゆく存在……。


 なのに、こんなにまでして虚勢と虚構を演じ続け、生きてゆかなければならないのか……。


「どうして……?」


 白く光る月に縋る……。


 月の姿がぼやけて見える……。


「…………」


 涙…………。


 瞳にうっすらと涙が滲む……何故、どうして涙が……自分でもよくわからないままに……。

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