第175話
「ありがとうございました……」
残りのメンバーが、詩織に続き頭を深く下げる。
なんて清々しい光景なのだろう……。
真の人間でも、こうはいかないだろう。
頂点を極め尽くしたというのに、驕らず、謙虚で美しい魂を宿し、最後の最後でスタッフ達の魂をも虜にする心優しい仕掛けを施す愛人形……。
私は、いつも愛人形達が気合いを入れる儀式を離れて見ているのが好きだった。
まして今、目の前に広がる光景に私の魂は熱くなり、快楽さえ覚える……。
詩織は「最後だから」と私にも輪に加わるよう勧めてくれたのだが、私は誘いを首を静かに振って断った。
気恥ずかしい訳ではない……私の愛人形達に誠心誠意で尽くしてくれるスタッフ達に対して、言いようのない後ろめたさという感情がよぎり、どうしても素直に輪の中に入れなかった……。
「照れないで……」
スタッフのひとりが笑い、私を尚も誘う。
尽くすスタッフと愛人形……その純粋な輪こそ、最も「らしい」風景なのだ。
そんな彼らもいずれ、創られた「死」に至る。
純粋な心のみで、人間は生きてはゆけないのだろう。
人間は、何処かに暗黒の自我を内包している……偽人という自我を……。
純粋と暗黒の自我が互いに語り合い、均衡を保つ事で、人間としての個性と品格を会得している……が、それは危うく……儚い。
暗黒の自我……偽人へと堕ちるのは容易い。
その逆は……。
故に、シフォンに起こった現象は「奇跡」といえる。
奇跡をあまねく人間達にゆき渡らせるのは……。
故の、我々の世界を終わらせるという事なのだろう。
「ラスト公演っ、全員で気合い入れていくよっ……!」
「ウォーッ……!」
詩織が勢い良く良い、繋いでいた手を高々と天に突き上げると全員が続き、叫んだ。
素晴らしい……。
拍手や歓声を上げ、場を更に盛り上げるスタッフ達……彼らとハイタッチを交わしながら、メインステージ袖口へと進む愛人形達……。
もう待ちきれないかの様に、アリーナ席からドーム全体に広がっている歓声は、その音圧を高めながらヴィーラヴの降臨を促す……。
「行ってきます……マイマイ……」
「やるよぉ……」
「やってやります……」
「やっちゃいますぅ……」
「マイマイっ……愛してるっ……行ってくるね……」
『よぉ〜しっ……行くよっ……』
「マイマイっ、最後に目にもの見せてやるよっ……イヒヤヘホィ〜〜ッ……」
「舞さん、最後の公演、私の全力で行きます……私を、私達を見ていて下さい……」
詩織が力強く語り、雪がはしゃぎ、流花が小躍り、葵が可愛らしい声で上塗り……キャロルアンが凛と言い、モカ、モコが愛らしいシンクロ……。
アリスの小憎らしい挑発と奇声……そして、万希子さんのしなやかな決意と願い……。
それぞれの想いが、ハイタッチを交わした手のひらから、温もりとなって私に伝わる。
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