第137話

 葵の「戦略」をわかっているかの様にシフォンは吐き棄てる……。




「か、可愛い……」


 男女を問わず、テレビ局のスタッフ達がそう言わんばかりの顔で葵をただ見つめる……葵の戦略的表情にすっかり魂を奪われたかの様に……。




「何だよっテメェらっ……!デレデレしてんじゃねぇぞっ、カスどもがっ……死ねっ……!」


 瞳を潤ませながら、切なく出てゆく葵をうっとりと見ていたスタッフ達に苛立ち、罵声を浴びせるシフォン……しかし、シフォンの声が届かない程、葵の余韻に浸るスタッフ達……。




「それではお先に失礼します……お疲れ様でした」


 万希子さんがスタジオを出るのを確認すると、最後まで残っていた詩織が再度念を押す様にシフォン、スタッフ達に言い、丁寧に一礼してスタジオを後にする。


 私が「心配」していたアリスは、シフォンに何の関心も示さなかった……。


 アリスはシフォンを「偽人」と判断したのだろう、実に賢いアリス……。




「ではシフォンさん、今日はありがとうございました……お先に失礼します……」


 もう長居は無用……私はシフォンと疲れ果てたマネージャーに一礼し、出口へと歩き出した……。


「ちょっと待ちなっ、マネージャーさんよぅ……」


 シフォンが唸る……。


「何でしょうか……」


「テメェ、この私に恥かかせてお先に失礼しますはねぇだろうがっ……!」


「シフォンさん……もういいじゃないですか」


「うるせぇよっ、お前だって悔しいだろうがっ……連続1位記録や売上げがこんなバカアイドルに負けて……けっ、ムカつくんだよっ……!」


「だからって、ヴィーラヴさんや高樹さんに八つ当たりするのは筋違いですよ……」


「テメェ、どっちの味方なんだよっ……ったくはっきりしねぇマネージャーだなぁっ、バカがっ」




「あのうシフォンさん……ヴィーラヴの事をバカアイドルとは少し言い過ぎではないでしょうか……」


 私は振り返り、シフォンを見据え、噛み砕く様に言った……。


「るっせぇんだよっ……そのまんまの意味だよっ……どうせ売れる為に業界のお偉いさん達に躰売ってんだろっアイツら……」


「シフォンさん、何て事言うんですかっ……申し訳ありません高樹さん……」


 シフォンの暴言に、マネージャーは私に謝り、頭を下げる……。


 私は、シフォンに返答しなかった……答える意味もない……。


 そんな私の意図を読み違えたシフォンは、汚い笑みを浮かべ、暴言を続ける……。


「ほらっ、言い返せないだろっ……やっぱりお偉いオヤジどもに抱かれてんだろっ……特にあの葵とか、モカ、モコの3人なんかオヤジ達のたまんねぇ餌食だよなっ。まぁ、この国の男の6割はロリコンだから無理もねぇっつうの……」

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