第82話

「葵……何が言いたいの……」


「狡いよ、こっち側の人間だと思ってたのに違うなんて意地張って……マイマイの思わせぶりな態度と躰が悪いんだよ……」


「葵、意味がわからないわ……私の何がいけないの。私は普通にしていただけ……あなた達を誘ってなんかいない。まして、そっち側の人間でもない。思わせぶりな態度?躰?……そんな言い訳じみた言葉で私にした事が正当化されるとでも思っているの」


「じゃあ、どうするの……葵と流花ちゃんの関係を皆に話す?……そして、社長にも話すのかな。それで、葵と流花ちゃんはクビになって新しいメンバーが補充されるのかな……マイマイがそれでいいなら葵と流花ちゃんは、あんな事したいと思った時から覚悟決めてたから、後悔はないよ……」


 いつになく「真剣」な物言いの葵……その頭が流花にしだれかかる……流花の手のひらが葵の髪を優しく滑る。


 怒りに任せて、ふたりの関係をメンバーや社長に暴露する……しかし、それでいいのだろうか。葵の言う通り、社長が激怒しふたりを脱退させるかもしれない……理由など、どうにでも繕える……でも、後味は悪い。それにこの「情事」をたがが外れた流花と葵がメンバーやスタッフ達に「置き土産」として吐露する事態もあり得る……。


 もしそうなったら、残ったメンバーやスタッフ達は私を蔑むだろうか……いや、私など棄てられてもいい。大事なのはヴィーラヴ……これまで共に涙、努力、喜び合ってこの地位を築いた彼女達の友情が崩壊し「黒い」私念だけが、それぞれの心に棲みつく……最悪の事態……。


「嫌だ……」


 私が導き出した簡潔な回答……。


 私の躰で流花と葵が「弄んだ」事で、今回のモコとのいざこざが解決になるのなら、私は口を閉ざし、この出来事を永遠に封じ込める。


 もうひとりの私がふたりを求めた……。


 嘘か真実か……今更私自身に詰問しても虚しいだけ……「起こってしまった」事は悔しいが受け入れるしかない……けれど、私にも流花と葵を非難する「資格」はある。


 ゆっくりと立ち上がった私は、足を肩幅に広げ、腕を組み「強がった」姿勢で昨夜の余韻にまだ酔いしれている流花と葵を見つめ、言う……。


「いいわ……あなた達の関係は、社長に言わないし、メンバーにもしばらく黙っていてあげるわ。でもね、私が流花と葵と躰の関係を持つ事はもうないと思って頂戴……」


『…………』


「わかったわね……それと他のメンバーにも、あんな事しないで……」


「あんな事って……」


 流花が不服そうに全身を尖らせる……。

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