第46話
「同情しちゃうよ……本部からは計画納品とかいって毎週どんぶり勘定で商品たんまり納入されてさぁ……でも人がいないから、検品や整理もおぼつかなくてバックヤードは崩壊。それでもたまにエリアマネージャーやゼネラルマネージャーなんかが視察に来る時だけ、皆に残業させてまで慌てて体裁を取り繕う。普段は残業するなって言ってるのにね。悲しき管理職だよね……上層部からも下からも突き上げくらって、文句言われて嫌われて、ストレス発散に店長派の社員やパート使っての嫌がらせ……まぁ、嫌われて当然だよ。辛いけど、逃げ道ないよね。だって肝心の店の売り上げが伸びないんじゃどうしようもないよねマジで……」
苦虫を噛み、弱気な表情を見せ始める川井出……この店の主であるかの様なアリスの口ぶりには、相当な真実も含まれているのだろう。
「どうにもならないよね……自動発注システムも結局、自分らで毎回定量の数値修正してさ……自動になってないっつうの。ウケるよ……んでもって、人が足りなくて品出しや商品管理もままならなくなって……アリス知ってるよ、とっくに賞味期限の切れたカップラーメンとか、特売品なのにポップがついてなかったり……しょっちゅうだよねこの店。そんな店でも、客が来るだけまだマシだよ……でも、このままじゃジリ貧だね。閉鎖店舗の候補になるのも時間の問題かなぁ……皆、魂奪われて脱け殻になっちゃって可哀想だよっ……最低、最悪っ!」
「……るっせぇ」
「えっ、店長さん何か言った?」
「う、うるさい……俺だって苦労して人員を回しているんだ。お前に何がわかるんだ……そんな事で万引きを誤魔化せると思ったら大間違いだぞ……」
言葉に勢いがない川井出……多田坂以上に白髪で、肌艶も悪く顎やおでこには吹き出物が幾つか見られる。二人とも、精神的に追い詰められている雰囲気を躰から匂わせる。
が……今のアリスに二人の内なる苦悩など、関係はなかった。
「もうぶっちゃけ辞めたいでしょうマジで……やってらんないよね。でもさ、辞めても次の仕事なんか簡単に見つからないよね……っていうか正直、ないよね」
アリスが万引きし、怒号を浴びせられていた事実とこの密室が、捻じ曲げられ始めてゆく……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます