第45話

 ここが「責め時」と状況を分析したアリスは「はぁ」と気の抜けた表情の二人に「口撃」を再開する。


「ったくさぁ、さっきからガタガタ御託並べて、るっせぇよ……あぁはいはいっ万引きしたよ、しましたっ。ってか、こんなのアリスだけじゃなく皆やってんだよ。ここの社員やパートだってきっとバックヤードの隅でこっそりパクってんじゃないの?……棚卸しで何度もマイナス在庫になるのも案外、それが一番の原因じゃないのかなぁ……」


「…………」


「それとさ店長さん、ここで働く皆の顔をまじまじと見た事ある?……はっきり言って疲れ果てて、死人の眼で働いてるよね。見てて超キモイっての。店長さん、こんな職場環境でいいのかなぁ。なんかひとり、客にも凄く偉そうに愛想ない態度で接客する男社員いるよね……ばっかじゃねぇの?たかがちんけなスーパーの社員のくせにえっらそうにさ。そのバカ社員、売場でも平気でパートの人とか怒鳴るよね……何様って感じ。ぶっちゃけ辞めて欲しいなぁとか、どっか他の店に異動しないかなぁとか思ってるでしょ……それとも、そのバカ社員は店長派なのかなぁ……あれれ、何も反論がないって事は、店長派か。他の社員やパートさん達がかわいそう……お荷物社員にそれを庇う店長。職場崩壊じゃん……こんなんで店の雰囲気上がる訳ないっしょ。ねぇ、わかってんの?アリスの事なんかより、そっちの問題を何とかしたらどうなんだよっ」


 もう、私が土下座してどうにかなる事態ではなくなってしまった……アリスの事だから、この後も川井出を責める筈。その間に別の解決策を考えなければと、この状況を「利用」し私は気配を殺し解答を模索する……。


 アリスは私の意図を読み取ったのか、手を緩めようとはしない。


「そりゃぁさ、店長の気持ちもわかるよ……エリアマネージャーとか上層部からは売り上げ増やせとか経費削減しろとか、毎日突き上げられて、レポート書いてさ……何か、るっせぇって感じだよね」


「くっ…………」


「達成し得ない数値目標や、公平でない評価制度。できる社員はさっさと見切りつけて早期退職して、使えない社員ばっか残ってさ、パートさん募集してもなかなか来ないし、そのパートさん達にも労働時間の短縮を強要して恨まれて……そんな苦労したって逆に仕事量は増えて、仕方なく現状の人員で店回して皆結局、追い立てられる様に仕事して、ストレス溜めてギスギスした人間関係になって職場や店の雰囲気が悪くなっちゃうんだよね」


「…………」

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