起
ある男の話をしよう。彼の名前は田中一。25歳会社員である。
彼は受動的な性格で有り体で言えばコミュ力が欠如していた。
彼の勤めている会社はICW(Instrument Connecting Works)であり、「一人一つのOSを」を企業理念にしており、モノのインターネットを主題に掲げる有数のITからモノづくりまで、幅広く手掛ける会社だった。
主にニューラルネットワークがICWの売り上げの大半を占める。ニューラルネットワーク、あるいはニューラルネットワークス(以下NNsと表記する)とは和名は人工神経回路網であり,生物の脳をシミュレートしようと再現した数学モデルである。
田中一に話を戻そう。彼は幼いころから飛行機事故の夢をみる。家の近くに飛行機が落ち飛行機の機体が家の寸前まで迫る。ぎりぎりで届かない。そんな夢だ。
彼、田中一についてもっと語るならば、井坂やよいという女性について触れなければならない。彼にとって彼女は天敵であろうか、あるいは終生のライバルであろうか。いかなる感情であれ、思い人であることには違いない。ただ事実、彼は彼女に直接自分から直接話題を振って会話したことはない。仕事上の関係ですました様子で「あら、そう」など素っ気ない返事しか貰ったことしかない。
ICWにおける彼女の役割は大きく,重要な案件を何度も廻してきたまさに仕事のプロフェッショナルと言える。彼女のNNsはLisaと呼ばれ
多くの企業に採用されていた。
一が働いていたころ、すなわち2017年
大きな案件が回ってきた。
初めての社会人生活。田中一は昂揚していた。コミュニケーション能力は欠如していたとはいえ、大学ではストレンジア博士と呼ばれるくらいには優秀な学生だった。
田中の他には隈本、戸川、竹端、沢村の計四名が新入社員としてICWに入社した。コーチは羽村真という男である
羽村は最初のセミナーでは二つのポジティブな面があると言った。
「一つは金を稼ぐこと。もう一つは人といっしょに時間を過ごせること。」
それを聞いて田中は羽村を良い人だと認識した。
だが羽村にはこんな一面もある。ICWには昼食を弁当配達で賄っていたのだが食事中一言でも喋ったらクビにする剣幕になる。
それからの一週間は朝早く起きるのはとても辛かったが勤務は楽しく新入社員を楽しみながら日々を送っていた。
そして初めての飲み会に参加することになった。
飲み会の幹事は羽村。飲み会は立席パーティの形でとり行われる
「いいか、タイミングだけは間違えるなよ」
羽村が言った。
そして、会場の扉が開かれた。
圧巻だった。あまりにも多くの人々の顔が目に移り頭がフラッシュバックした。このとき初めてICWの仕事の大きさを理解した。いや、理解できなかったと言ってもいい。田中は一瞬で同期4人の存在が頭から消えた。癲癇がおきた。
混乱のさなか、伊坂やよいが飲み会でこんな独り言呟くところを聞いた。
「何故言葉は離反するのだろう…」
彼女なりの悩みがあるのだろう。田中は対する言葉が見つからずただ黙って聞いていた。
結局一は二次会を欠席し、先輩社員の石塚は一次会すら欠席した。
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