第93話奴隷

スラム街にてチンピラ~ズを率いてやって来たリーダーの男。その男と共に地下通路を通り、男が所属する獣王国最大の闇組織獣爪ビーストヴォルフのアジトまでやってきていたセリム。


上に話しを通すために先に部屋を出た小物へとクラスチェンジしたリーダーの男を待つこと数分。屋に入ってきたのはガチムチの男二人組だった。


二人とも身長はセリムよりも頭一つ分は高く、張り出した筋肉と如何にも裏稼業やってます!的な厳つい顔をした風貌だ。しかしそんな風貌ながら頭の上には獣人としての証である獣耳がついており、ギャップを感じさせられる。


百歩譲ってガチムチの女性が獣耳生やしているのならまだ何とか許容できよう。だが目の前のガチムチの男が生やしているとどうにも気分を不快にさせられる。というか、男で獣耳という時点で気持ち悪いと失礼な事を思っていた。


こうしてガチムチにサンドイッチされるという不快な思いをしながらたどり着いたのが先の場所だった。


サンドイッチされた理由としてはリーダーだった男がスラムで会った出来事を話したのだろう。それにより警戒されていた。



前方のガチムチAが顎で指し示す先に奴隷がいるという話であるが、扉などで区切られてはおらず、暖簾のように腰までの長さのある赤い布を垂らしてあるだけだった。


ガチムチAが暖簾を払い先に部屋に入っていく。それにセリム、ガチムチBと続く。


常に後から着いてくるガチムチB。会ってから一言も喋っておらず黙々とストーキングしてくる様は寡黙な仕事人というイメージを抱かせるが、常に背後から視線を感じるセリムにとってはそんな高尚な存在には思えなかった。


部屋に入ってまず一番最初に思うのは異臭だろうか。


奴隷という身分もあり仕方ないことなのだろうが鼻を刺激する臭いが部屋中を満たしている。人間なんかよりも嗅覚の鋭い獣人のAガチBムチは目を細め嫌そうな顔をしている。



「この中から好きな奴を選べ」



ガチの言葉を聞き、セリムは奴隷達を見ていく。部屋の中の明かりはかなり高い位置にある窓から差し込むものだけであり、十分な光量とは言えなかった。


足元は常に暗く、"夜目"などの暗視スキルか闇に慣れた目でもしていない限りは危ないだろう。その中を"夜目"を用い進んでいく。


端から順に"鑑定"を使い視ていく。奴隷達は大体三畳程のスペースの檻に三人一組で入れられている。


どの奴隷もみすぼらしい服にボサボサの髪、虚ろな目をして壁などに寄りかかったり伏していたりしている。リーダーが言っていた通り奴隷にはエルフも混じっていたりするがせっかくの美貌が汚れてしまい美しさが失われていた。


一人ずつ慎重に鑑定を使用し視ていく。部屋の周囲に沿うように設置された檻を見終わると部屋の中央におかれている檻も視る。



「お前らの奴隷はこれで全部か?」


「まだいるが、お前に売れるのはこいつらだけだ」


「ッチ」



隠そうともしない露骨な舌打ちをする。瞬間近くにいた奴隷が何かされると思ったのかビクッと身体を震わせた。


どの奴隷も大体が一次職、よくても二次職になっている者だけで求めていたような使えそうな者はいなかった。


とは言え、数がいる為持っていないスキルも中にはあったので今回はそれで我慢か…と思い、もう一度視て回り、購入する奴を決めていく。


二巡目が終わるとガチを呼び寄せ購入していくを指し示していく。


結果、購入に至ったのは全部で三匹だった。かなりの数の奴隷達がいたはずなのだがセリムのお眼鏡に叶った物は少ない。いや、この場合はセリムのお眼鏡に叶ってしまった物は…と言うべきか。



「全部で銀貨八十だ」



これが安いのか高いのかイマイチ判断に困る値段だったが、金など手に入れようと思えば直ぐに入る為、深く考えることをやめて金貨を一枚投げ渡したその時だった。部屋の外から悲鳴のような声が響いてきたのだ。


ムチに指示を出し確認しに活かせるガチ。顔には何が起こっているのか分かっているようで疑問などは浮かんでいない。このことからムチに確認に行かせたのは念の為という意味合いがあるのだろう。


ここが闇組織などというのを考えれば何かしら非合法なことでもしているんだろうと予測がつく為にセリムとしてもそれほど気にすることは無かった。


だが、悲鳴が先の一回きりならば気にはしなかったが、その後も何度も何度も聞こえるようになってくると流石に気になってきていた。


――耳障りだな、と


投げ渡そうとしていた金貨を革袋に戻すと赤い布が下げられている部屋の入り口まで歩を進める。



「待てよ。どこに行く気だ」



後ろから肩を掴まれ引き止められる。ギリギリと音がしそうな程強く掴まれた肩には指が食い込んでおり、きっと赤くなっていることだろう。


込めている力が尋常でないことから察するに悲鳴の聞こえた方にはどうしても行って欲しくないようだと推測できた。


先程他に奴隷がいるのか?と聞いた際には他にもいるという回答をしていたこと。


「放して!」や「やめて!」などの悲鳴からして新たな奴隷などでも拾ってきたんではないかと言うこと。


それらのことから今も尚悲鳴が聞こえて来る場所には他の奴隷がいるのでは?と考える。


今ならば他の奴隷がいるかもしれない部屋が分かる。ならば売れない奴隷達を見に行けると歩を進めるのも仕方がないこともかもしれない。


そもそもこんなところにまで来て買うのがしょぼい物では割に合わない。もう少し使えそうな物が欲しいのだ。


ガチに肩を掴まれたまま強引に歩き出す。行かせたくないガチはさらに力を込めるが止まらないと見るともう一方の手でセリムの腕を掴み後ろにひねり上げた。今はまだ可動範囲内でひねられている腕だが、少しでも動くたびに少しずつ力が増し範囲外へと近づく。



「何の真似だ?」


「それはこっちのセリフだ。これ以上動くなら腕をもらう…わかったら買い物を済ませてさっさと帰れ」



厳つい顔とドスの聞いた声でそこまで言われてしまえばさすがのセリムも諦めるしかない。進もうとしていた足を引き戻す。


進む意思がなくなったと感じ取ったガチが腕の捻りを緩めた瞬間、くるりと反転しグーパンチを顔面にお見舞いした。


防御姿勢などとっていなかったガチは勢いよく吹っ飛ばされ買う予定であった奴隷達の横を通り過ぎ、檻にぶつかった。


加減したとはいえぶつかった勢いで檻は歪んでしまい、中にいた奴隷は盛大にビクついてしまっているがセリムにとってはどうでもいいことだ。ガチムチコンビがいなくなったところでようやく悲鳴の聞こえた方へと進みだした。



悲鳴の聞こえた部屋の前に到着する。


そこは先の奴隷部屋と同様ドアはなく青い布が暖簾のように垂れ下げられているだけだった。おかげでよく声が響き場所は直ぐに特定できた。


部屋の中からは未だに聞こえる少女と悲鳴。加えて泣き声と男の野太い声で「黙れ」などといった威圧的な声がプラスされている。


部屋の中からはかなり多くの気配が感じられる。どうやら声を出している者以外にも人がいるようだ。これは当たりっぽいなと徒労に終わらなかったことに安堵すると、まるで行きつけの居酒屋に入るかの如く暖簾を払い除け部屋へと入っていく。



(当たりだな)



まず目に飛び込んでくるのは先の部屋同様の檻の数々。部屋の作りなどは同じように見えるが唯一違う点がある。それは先の奴隷達はかなり酷い有様だったというのにこの部屋の奴隷達は結構身奇麗だった。あくまで最初のと比べればだが。


次いで目に入るのは部屋の中央付近に溜まるガタイの良いチンピラ共だ。先程様子見に出された寡黙な仕事人を装ったストーカー――セリムが勝手に思っている――ムチBもいる。


寄り集まっている男たちは何かを檻に押し込むような動作をしながら「さっさとは入れや!」とヤクザみたいなことを言っている。悲鳴もそこから聞こえることから十中八九、今まで聞いてきたものなのだろう。


視線を向け、檻に入れられた奴隷達を鑑定しようとしたところでチンピラがセリムに気付き近寄ってきていた。



「おい、お前誰だ?」


「客だ」


「あ? 客?」



「今日来る予定あったっけか?」と疑問顔をしながら背後の男達に問いかけるも帰ってきた答えは「聞いてない」であった。男がセリムに再度誰何するも答えは変わらず客の一点張り。



「お前ら、そいつ…を捕えろ」


「兄貴っ!」



背後から聞こえた怒声にも似た声に目の前のチンピラがひどく動揺した声を出す。


振り返って見ればそこには先程殴り飛ばしたガチがいた。口元を押さえ肩を上下させながら入口の壁を掴んでいる。


押さえている手には流血の痕があり現在もポタポタと血が垂れている。兄貴と呼んだ獣人が駆け寄ろうとするもガチはもう一度声を上げセリムを捕まえるよう血をまき散らしながら指示を出す。


突然の事態に動揺する一同であったが、直様立て直すとセリムへと襲いかかった。結果は言わずもがな。触れることすら叶わず、ガチ以外のその場にいた全員が倒れ伏してしまっていた。



「クソがっ… 先生ぇ! 先生ぇ! お願いしますぅ」



虚空に向かいいきなり大声を出すガチ。するとどこからともなくいきなり目の前に人が姿を現した。


全身を黒装束に包んだまるで忍者のような格好をしている。黒い布で口元を覆い身長は低く160もないだろう小柄だ。


ガチが先生と言い呼び寄せたことから腕に自身のある者なのだということが分かる。だがあまりにも小柄であり、体格からは女性のようにも見え、なんとも迫力に欠けているのが残念だ。もう少し体躯がよければ格好がついただろうに…と思わず敵である筈のセリムは思った。



「先生そいつを捕まえて下さい」



コクリと頷くを返す異世界忍者さん。


リングから粒子状になった短剣が徐々に形を成していき両手に逆手で持つと構える。


刃の先には見るからに毒と分かる程の禍々しい色をした液体が塗りたくられており、一滴床に垂れる度にシュウゥゥと音を立て煙が立ち上る。


忍者を観察していると一瞬にして姿が掻き消えた。消えると同時に放ったであろう鉛筆ほどもあるテカテカ光る毒針が視界に入り、次いで頭上に気配を感じ取る。


身体を九十度回転させ針を躱すと同時に五本ある内の二本を手で掴み、一本は近くに転がっている獣人に、もう一本は真上に向かって投げつける。


毒針を短剣で弾く音がなる。異世界忍者に一瞬の隙が出来る。


軽くジャンプすると首めがけて腕を伸ばす。素の状態でも筋力値五万オーバーのセリムに掴まれれば一瞬で喉を潰されて終わりだ。


捕まらないように空中で身を捻ろうとする忍者だったが、セリムのほうが速く首を掴んだ――瞬間、雲を掴んだような手応えの無さと同時に忍者が霧の如く霧散した。


先程毒針を投げた獣人の叫び声をバックに気配を探ると背後からの殺気と短剣が迫ってくる。


針についていた毒と剣についていた毒は色が違う。そのことから別種の物であるとわかる。とは言え、毒であることに変わりはない。毒針の実験体となってもらった獣人の声を聞く限りかなりの激痛を伴っているのが想像できた。


しかも針よりも短剣に塗られている毒の方が如何にもな毒!という感じであり、受けてしまえばどうなるかは分からない。


迫る凶刃を視界の端で見据えながら勢いよく上半身を前のめりに倒す。


ちょうど前転するような感覚だろうか。遠心力を乗せた回転により、元いた場所から一m程前に回転し着地するも背後には毒塗りの凶刃を両手に持った忍者が迫ってきていた。


振り向き際にリングから取り出した長剣で短剣を払いのけようと振る。紙一重で避けられ、バク転しながら後退し天井に二本の足で張り付く。まさに忍者に相応しい出で立ちだ。


そんな事に気をとられているとまたしても毒針が飛んでくる。今回は針以外にも札のようなものが混ざっている。


毒針の効果は獣人のチンピラという尊い犠牲で確認済み――口元からは泡を吹き痙攣している――であり、仮に当たったとしても今の耐性値ならば何とかなるだろう。


問題は札の方だ。見たことも聞いたこともない物であるが、戦闘に使ってきたことから間違ってもただの紙などとは思えない。何かしらの武器であるのは明白。


取り敢えず射程内に入った針を一本二本と剣で弾いていく。本来であれば効果不明な札は後回しにして毒針を先に全て叩き落としたかったところだったが、次に飛んできたのが札だった。


しかし躊躇している時間もなく札を斬ることに決める。剣が札を切り裂こうと触れた瞬間だった。


爆発を引き起こした。それにより黒煙をあたりが覆い、今しがたまでセリムがいたであろう場所に毒針と札が降り注ぎさらなる爆発を引き起こす。



「ちょっ、先生。ここは大事な商品があんだから爆発は…」


「…大丈夫。威力、抑えた」



それでも音も威力もすごかったんですが…と突っ込もうとしたガチだったが今はそれよりもと先生なる忍者にセリムの捕縛を頼む。


一つ頷きを返す先生忍者。


リングから先程と同じような札を数枚取り出す。未だもうもうと黒煙立ち上る場所に向けて投げつけた。直後、黒煙越しでも分かるほどの激しい稲光とともに雷に打たれた人間の影が映し出され、数秒後にはバタリと倒れた。


少しの間黒煙を見て動きがないのを確認すると仕事が終わったのだと短剣をしまう。そしてシュタッと華麗な着地を決め、ガチに向かい仕事完了の声をかけた。



「仕事終わり。チェルの元に戻る」



え? 捕まえてくんないの?と思うガチだったがここまでやってくれたことと、先生忍者の本来の仕事は獣爪ビーストヴォルフのボスであるチェルス・ディードの護衛であることを思い出し渋々了承する。だが、流石に一人で負傷した仲間とセリムを運ぶのは辛いために適当に誰かを呼んできて欲しい旨を伝えると恐る恐る黒煙の発生地へと近づいた。


「ん。了解」と言葉を言い切る寸前、真横を何かが通りすぎた。見てみればそれは黒煙に近づいていったガチだった。



「使い捨ての札型武器…起爆札ってところか」



吐き捨てるように言われた言葉に緊張感が高まり、一瞬にして戦闘態勢に移行する。先程確実に仕留めたと思っていた人物の気配が急速に膨れ上がる。まるで包み込む…いや飲み込まれるような圧倒的な存在感が出現した。


それと同時に黒煙の中から現れたのは無傷・・のセリムだった。


攻撃を防いだ手段はわからないが、感じられる気配は圧倒的に大きい。そのことから相当な強者だと分かる。


姿は人間、だが感じられる気配はとても人間が出せるようなものではない。


目の前の人物は危険だと激しく脳が警鐘が鳴らされているのを自覚しながらも冷静になるように心がける。


とてつもない緊張感ではあるが過去に一度似たようなものを味わったことがある。そのお陰か驚きも焦りも徐々に収まっていく。軽く深呼吸をする。



「…何故、立て、るの?」



驚きながらも問いかける先生忍者。質問を投げかけられたセリムは足元に転がっている獣人を蹴り飛ばし先生忍者の下まで寄越す。


確認してみると獣人は酷い傷を負っているようで先程セリムに止めとして投げた筈の雷撃符が張り付き、全身を焼け焦がしていた。


雷撃符による攻撃を防いだ方法は理解出来た。まぁ手段は最低と言える最低なものであったが理解した忍者さん。だが、その前の攻撃はどうやって防いだのか。蹴飛ばされた獣人を見る限り毒針が刺さっている様子も爆撃符によるダメージも見受けられない。



「理解。でも、最初の攻撃、どう防いだの?」


「…お前は随分と目出度い頭をしてんだな。一度目ならいざ知らず、二度も種明かしする優しさなんぞ持ち合わせてねぇんだよ。まぁ一度目でも教えるのもどうかと思うがな」



要するに知りたかったらもう一回やってみろということなのだろう。ムスッとした雰囲気を醸し出す先生忍者。



「分かった。なら、ここからは私も、本気」



忍者さんから発せられる気迫が先程までに比べ倍近く膨れ上がる。口元を覆っていた黒布が外され、口には先程まで使っていた毒塗りの物ではない短剣を、いつの間にか全ての指の間にはクナイのような物が握られている。言葉通り本気で殺る気なのだろう。


一歩踏み出した。そう認識した瞬間には既に姿は消え、分身したかのように部屋の至るところから先生忍者の気配を感じ取れるようになった。


セリム目掛け360°全ての方角からクナイが飛来する。


全方位に風魔法で風を放出することでクナイを弾き飛ばすも、その時には既に忍者はセリムの懐に入っていた。右手に握られる紫色に妖しく光る短剣で切りかかる。


迫る短剣ではなく腕に腕を押し当て防御しようとするもいきなり身体から力が抜けてく感覚に陥る。


それはまるでステータスが奪われている、もしくは下がったかのような感覚だった。その隙を突かれ見事に一撃を左腕にもらい鮮血が宙を舞う。さらに左手に握られている純白とまではいかないが白色に光る短剣が振りかぶられる。すんでの所で後退、回避した…までは良かった。


先生忍者が言葉を発した次の瞬間、目を疑う光景が広がった。



狂宴の音色フォリー・フェスタン



言い終わると同時に腕に負った傷が勝手に開いた・・・


ひと指し指程度だった傷が三十cm程の大きさまでになっていた。そうなれば当然血も吹き出し、辺り一帯に飛び散る。


勢いよく飛び散った血は忍者の近くまで届いていた。謎の現象に眉を顰めるセリムだったがまだ終わりでは無かった。裂けた腕を確認しようと動かそうとした時に違和感を覚えた。



(左腕の感覚が…ない?)



先ほどの短剣で切られたからなのか、狂宴の音色フォリー・フェスタンというものが原因なのか、判然とはしなかったが一切の感覚が無くなっていた。おかげで痛みもないのだが。



血の判決ブラッディ・センテンス



さらに呟かれたスキルと思わしき言葉。足元に血で描かれたかのような真っ赤な魔法陣が出現する。


見たことも聞いたこともないスキルを連発する忍者。ここへ来た甲斐があったと思わず笑みが浮かびそうになるのを堪え、口を開こうとした時にまたしても違和感を感じった。



(動かない…)



目線だけは動かすことができるようだが、それ以外、首も腕も足も何もかもが動かなくなっていた。


特に痛みや呼吸困難などを引き起こしていないことから毒ではないことは分かる。


となれば可能性としては麻痺だが、一番低い耐性値でさえ以前とは比ではない値になっているのだ。


ただの麻痺にかかるわけがない。かなり強力な、それもSSランク級のモンスターが持つ物ならば話は別であろうが短剣には何も細工はなかったように見受けられる。


さすればやはり先程の血の判決ブラッディ・センテンスというスキルが原因なのだろう。


傷口を悪化させた次は左腕の感覚をなくし、挙句は全身の自由を奪う。まっこと豪勢なレパートリーに感心してしまうセリムであったが、一歩また一歩と着実に歩み寄ってきた忍者に意識を向けることで思考を打ち切る。



「もう、あなたは、終わり…言い残すこと、は?」


(動けねぇのにどうやって言い残すんだよ)


「…その態度、立派」



死ぬかも知れない寸前に何も言わないのを潔いものと受け取ったのかお褒めの言葉を受ける。


まったくもって何も嬉しくはないし、スキル使用者自身がスキル内容を把握してないとも思えないため、これは完全におちょっくってる、もしくは天然さんだと思えてしまった。



「あなた、強かった。けど、ここ、で、バイ、バイ」



可愛らしくバイバイを告げる忍者さんだが、言っていることは要するに"死ね"だ。オブラートに包んではあるがただの死刑宣告。


ただの別れの挨拶ならば手でも振り返していい笑顔でバイバイするのだが、この状況では仮に動けてと気軽にバイバイなど出来ない。しようものならやりきる前に首スパンッ!で永劫のバイバイだ。



先ほど左腕を切り裂いた紫色の怪しい光を放つ短剣を構える。


セリムの首目掛けて振りかぶった。


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