第46話もしも…

クロケットパンと言う名の異世界版コロッケパンを食べながら街の中をぶらつくセリム。空はまだ完全には明るくなっておらず大半が黒っぽい。しかしそんな時間帯にも関わらずセリムは外出していた。


昨日、防衛戦を終えたセリムは宿屋へと直行しすぐに眠りについた。そのため明け方に目が覚めてしまい宿屋の食堂はやっておらず外での食事のついでに

街の探索へと乗り出すことにしたのだ。



「この時間だと人が少なくて中々にいいな」



朝早いこともあり殆どの店が開店しておらず人通りも少ない。加えて、今セリムが歩いているのは大通りのような道でもない為余計に人が少ないのだ。


朝特有のひんやりとした風を身に受けながらゆったりとした歩調で歩いていく。ゆっくりと歩を進めながらクロケットパンを食べていたが、そろそろ食べきるサイズとなっていた。最後の一口を食べ包みはどこに捨てるか、と悩むがゴミ箱のようなもが近くに見当たらなかった事もあり魔法で一瞬にして燃やす。手に触れている部分とは反対から徐々に黒く焦げていき全体へと伝播していく。

そうして風が吹くと焦げた紙は塵となって舞っていった。使い方はともかく、魔法の便利性を改めて実感する。


大通りから外れてはいるが、食事処や雑貨店、服飾店などがある。こんな所にも店があったのかと今まで知らなかった事を知りながら店を通り過ぎていく。殆どが住宅などの家だったがその一角に広場を見つける。



「何か場違いな感じだな…」



とは思いながらも広場へと向かう。そこは広さ的には決して広いとは言えない、せいぜい15坪程度と広場と呼ぶには狭いものだったが街中にあるのであれば仕方がないだろう。周囲を楕円状にかたどった生垣が感覚を開けていくつか点在している。そして広場の中には公園のように木製の動かせるベンチが2、3台置いてあるだけだ。


よっこいしょっと呟きながらベンチの端へと腰を下ろす。浅く腰掛けぼーっと景色を眺める。遊具でもあれば完全に公園だがやはりそこは異世界、小さな子供も何かしら手伝いがあったりして遊んだりは中々できないのだろう。



(ハンスにシトリア、ルナにロウ…今頃どうしてんのかな)



ふと両親や友達、世話になった人の事を思い出す。ここ、都市アルスに来てからは思い出すことが少なかった。思い出せば会いたくなってしまうから。だが、こうして何もせずにいると思い出すことがあった。


神敵スキル、神を害するスキル。このスキルを持った事で全ては始まった。つい1ヶ月くらい前の出来事なのに随分と昔に感じられる。あの時、ロウだけに全てを託してルナはおろか両親にも分かれも言えず村を出てしまった。この行動が正しいのかは誰にもわからない。そうセリムすらも。だた1つだけ言えるのはあの時のセリムはこれが最善だと思って行動したと言う事だけだ。



「ったく、何ナーバスになってんだか」



はぁ~とため息を付き自身の現状にいら立ちを覚える。


人と言う生き物は体調が悪かったりするとネガティブな感情などに陥りやすい生き物だと言われる。今のセリムはまさにそんな感じだろう。


全てを背負い生きていくと決めたのは自分自身であり、それを決行したのが今のセリムだ。だがそれでも思ってしまう。もし、あのまま何事もなく村で過ごしていたならばどうだったのかと――考えても詮無き事ではあるのだが考えずにはいられないものだ。そんな一人、もしもの話しを考えていると突然背後から声を掛けられる。



「随分と暇そうだね、話題のルーキーとは思えないわね」



偉そうな感じで話かけてきたのは声からして女性だとわかる。だが、聞き覚えのない声ということもあり人違いか、もしくは他の人に話かけているのだろうと考え、振り向かずベンチに座ったままだら~と前方の景色を眺める。



「あんただよ、セリム!」



無視すんなっとヒステリックな声を上げ再度話かけてくる女。だがそれでもセリムは振り向かなかった。すると徐々に足音が近づいてくる。ザッザッと言う音を立てながら地面を蹴り女はセリムの横へと立つと徐に両手を突き出しセリムの頭を掴む。そうしてぐいっと強制的に振り向かせる。


いきなりしかも強制的に振り向かせられたこともあり顔を顰める。



「痛いんだが、離してくれないか?」


「無視しないっていうならね」



セリムの横に立っていたのは茶髪で革の鎧を着込み腰には短剣を提げた、見た目盗賊とかそういった系の職業を持つ人間の冒険者だった。



「何の用だか知らないがあんた誰だ?」


「私は、リアナ。一応これでもCランク冒険者ね。よろしく」



リアナと名乗った女は挨拶を手短に終えるとセリムの挨拶も待たずにセリムと同じベンチに腰掛けた。



「ていうか、何でさっき無視したの?」



気になっていたのだろう。若干ムスッとした表情をしながら訪ねてくる。



「無視したも何も、聞き覚えの無い声だったからな…俺に話かけられてるんじゃないと思ってた」



噓である。この広場を含め周囲に人影はほとんどない。まったくいないわけではないが、こちらに向かって声が掛けられているのは声のした方向からセリムは分かっていた。仮に違ったのならそれはこの女性リアナと名乗った女が見知った顔を見つけたから遠くにいる、気づかれないかもしれない友人、知人に話かける変人と言う事だ。



「まぁ、いいわ。それよりもこんな所で何してんの?」



さらっと軽い口調で受け流し疑問に思っていたことを聞く。



「その前に何であんたは俺の事知ってるんだ?」


「そりゃー、有名だからよ。あんた知らないの?

 アルスの冒険者の間では結構広まっているわよ」


「?」



思い当たる節はあったがそれは口にはせず自身の考えが正しいかどうかの確認の為にわからないと言う顔を作り、答えを促す。



(まぁ、大方昨日の防衛戦だろうな)



呆れたと言う表情を作りながらも説明してくれるリアナ。



「昨日の防衛戦での事ね。Aランクモンスターを単独で、しかもほぼ一方的に倒した冒険者がいるって、しかもAはおろかBランクですらないと、ね」


(やっぱりな、目立つとは思っていたが出しゃばりすぎたか…だが、結局力を求めるならスキルの性質上強いモンスターと戦わなくちゃだからな)



本当なの?と言う疑問の目を向けながら話の真偽を問うてくるリアナ。セリムが目立つような行為に及んだのは目下力を付ける為の最短ルートを目指しての事である。本来であれば目立ちすぎはあまり、よくはないだろうとは思いつつも先程言った通り、スキルの性質上強いモンスターを喰えばそれだけ手に入れられるスキルも強力な物になってくる。


だが、今のまま下位ランクだと上位の依頼を受けるには誰かに同行しなければならず手間がかかるのだ。それを考えた時多少?目立つのは仕方がないと

割り切って高位ランクを目指す頃にした訳だ。



「まぁ、そうだな。そんなに広まってるのか?」


「当り前よ、なんせこのアルスでもAランクモンスターを単騎で一方的に倒せる人間なんて殆どいないんだから。だからこそセリム、あんたの評価は一気に上がるでしょうね」



「ランクアップおめでと」最後にそう付け足す。だがセリムにとっては全く話しか見えなかった。いきなりランクアップの事を言われどうゆう事だと訝し気な表情を作る。「あ、そっか」と一人納得の表情を作り語りだすリアナ。



「本来ランクアップ試験って言うのは日程がある程度決まっているのよ。大体2月に1、2回程度って。だけど防衛戦があった時はその時の戦果を考慮して試験が開催されるの、だから皆防衛戦ではランクアップのチャンスがあるから頑張るのよ」


「そうなのか、でもそれって防衛戦が数日中に複数起こったら複数開くのか?」


「そうはならないわ、防衛戦の後の試験は大体が数日後で侵攻の兆しが無いことを確認をしてから行われたり、後は複数回あっても最初の一回だけしか開かないわ」



そうゆうもんかと一人納得していると広場に面した通りの道から二人の人物が歩きながら声を掛けてくる。



「リアナさん、準備出来ました」


「リアナ―出来たよー」



聞き覚えのある声にセリムが振り返ると、広場には入らずに、ちょうど通りと広場の境界線あたりでラッツとメルが立っていた。すると二人もセリムに気づいたようで近づいてくる。



「久しぶりだな、セリム」


「久しぶり。聞いてるよ、防衛戦では大活躍だったんだってね」



先程リアナにも言われた事を言われ、まぁなと頷き返す。



「何だ、三人は知り合いなの?」


「まぁな」


「色々あって…」


「そうそう」



リアナの質問にセリム、ラッツ、メルの順で答えを返していく。



「まぁ、いいか。それより準備できたなら行こうか。じゃ、私はここいらでお暇するわね」



リアナがベンチから立ち上がりかけた所でこちらに向き直り、「試験をいつやるかは冒険者ギルドで確認しなさいよ」と一言だけ発すると今度こそ立ち上がり歩き出す。



「悪い、俺たちこれから依頼があるんだ。またな」


「またね、セリム」


「朝から大変だな、昨日の防衛戦参加したんなら金には困ってないだろうに何でこんな朝から?」



昨日の防衛戦ではA~Dランクのモンスターが出現し、それなりに儲けは出ているのである。それなのに何故だ?と口にする。



「俺とメルは参加してないんだよ。リアナさんが危険だからって参加を認めてくれなかっんただ。まぁ、それも今はあの人に教えを受けている身だから仕方ないし昨日の防衛戦はいつもと違ったって言ってたから参加しなくて良かったのかもしれなかったけどな」


それだけいうと二人は別れの挨拶をし、リアナを追いかけていく。こんな朝から依頼とは大変だなと思いながら三人を見送る。



「とりあえずは明日ギルドに顔を出せばいいか」



そう言いながらベンチから立ち上がり宿屋へとかえっていくのだった。その頃になる空はすっかり明るくなり日が街に降り注いでいた。



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