第45話喰(た)べ過ぎ

馬車内での居心地の悪い雰囲気に辟易しながらも馬車は進み、都市アルスが見えてきたと御者を務める冒険者が告げる。



(出発して数時間しか経ってないの随分と久々な感じがするな)



「やっと着くのね、今日はもう疲れたし早く休みたいわね」


「ほうにゃ~」



都市が近づくと皆一様にやっとか…という表情を浮かべる。それも仕方がないだろう。ついさっきまで戦っていたのだから。




ガタガタガタと言う音の後に馬車はゆっくりと停止する。ついで御者の男から声がかかる。



「着いたぞ」



その声はあまり元気が感じられず如何にも疲れたというのが感じられるものだった。アルスへの到着を告げる声を聞きセリムは馬車から降りようと腰を浮かしかけたとき、クロが話しかけてくる。



「直ぐには街にはいれにゃいにゃよ~」


「そうなの?」



クロのこの発言にキーラが反応を示し、セリムはため息をつきながらそそと元の場所へと戻る。席に着き向かいの席の冒険者を見ると皆、理由を知っているのかやれやれと言った表情だ。



「防衛戦とか大規模な戦いの後は人数の確認とかのチェックがあるのにゃ」


「チェック? そんなのしてどうすんのよ?」



キーラが訝しみながら訪ねる。



「冒険者は貴重な戦力なんだにゃ。特に、偶にとは言え、モンスターが侵攻してくる事がある場所はにゃ。だから大規模な戦いのあとは被害などを把握する為にチェックが欠かせないらしいのにゃ~」


「ふーん」



二人の会話を聞きながらセリムは戦力の把握ね…と如何にも面倒ですという雰囲気を出しながらも確認作業を受ける為におとなしく馬車の中で待っていた。





数十分後―

セリム達一行が乗っている馬車の所に1人の警備兵が訪れた。



「確認チェックに協力願います」



そう短く告げたのは都市アルス警備兵1人でる。銀製の鎧に身を包み腰には剣を差している。そして今は手に紙とペンを持ち馬車に乗っていた者たちに一人一人名前を聞いて回っている。



「随分と普通な確認方法だな」


「どんな方法を想像してたんにゃ?」



魔法がある世界の為もっと効率的なものがあるんじゃないかと考えていたセリムはあまりに普通のやり方に一人感想を漏らしてしまっていた。そこへクロがセリムがどういった方法を想像していたのか気になったようで質問をしてきた。



「それより参加した奴の確認なんていつしたんだ?」



なんかものすごい効率的なやり方だろうな、と具体的なものはなくフワッと抽象的なイメージだった為答えが出てこず何とか答えたのはいいが、それは質問に対する答えではなく話を変えると言うものだった。



「んにゃ…今回は急な防衛戦にゃったし事前に参加者の把握はしてにゃいにゃ~」



セリムが質問に答えてくれなかったことに多少思うところはあったが、そこは年上のお姉さんと言う事で気にしないようにしながら質問に答えていく。



「なら今確認したところで元々確認が取れてないんじゃ意味ないんじゃ?」



元から参加者の確認が取れていないならば今の確認に何の意味があるのか分からず、訝し気に再度質問をする。



「本来なら防衛戦がある時はその前に何かしら兆候があるんだにゃ。例えばモンスターの集団を見かけたとか、森からモンスターが減ったとかにゃね

。それがあってから参加者を募るんだにゃ~。でも今回はそれがなかったにゃ。けど一応戦力の確認とかって意味じゃなにのにゃ?」



質問に対してクロの回答は曖昧な部分が含まれてはいたが一応納得する事が

出来た。納得したと同時にクロの言葉に引っ掛かりを覚える。



(兆候…モンスターの集団)



そこまで考えた時、警備兵に名前を聞かれる。手短に名乗りを上げると再び考えこんでいく。


思い題されるのは数日前の事――

森での調査の事だ。あの時の依頼内容はモンスターの集団を目撃したと言う情報の真偽の確かめるものであった。その依頼を受けたのは何を隠そうセリムとキーラの二人なのだ。そして調査の結果、出した答えは情報を否定するものだった。



そこまで考えた所で思考の海から浮上しため息を吐く。



(まさか、あの依頼がそうなのか…)



依頼を受けたのはセリムであり実際に調査を行いその結果、出した答えが否定だっただけであり決してセリムが悪いと言うわけではない。が、もしこの後「お前がもっと入念に調べておけば…」と言った文句などがくるのかもしれないと考えるとどうしても面倒だと言う気持ちにならざる得なかった。





翌日。昨日行われた防衛戦が終わり特に怪我などもしていなかったセリムは自からの足で宿屋、ビルド停まで戻ってきた。時刻が既に夕方だったのもあり

食事をとり風呂に入りその日はそのまま眠りについたのだった。



「ふはぁ~」



欠伸をしながら目を覚ます。時刻はまだ4時だったがかなり寝てしまったのもあり、二度寝をするほどの睡眠欲もなかったため起き上がろうとした。

が、その時に違和感を覚える。体が鉛にでもなってしまったかのように重く動きずらかったのだ。



「何だこれ? 何で体がこんなに…」



そこまで言った所でふと一つの考えが浮かぶ。



(昨日の防衛戦で魂を喰らいすぎたとかか?)



防衛戦の前日までは起こりえなかった体の異常に防衛戦の翌に起こったことから考え、関係があるのではとアタリを付ける。


事実セリムの体は昨日の一戦で魂を一気に喰らいすぎていた。質的には低いものが多かったのだが1人で100近くの魂を喰らったのだ。その所為で体に倦怠感として反動とでも呼ぶべきもの表れた。



(今日は体を休めるか)



今日はゆっくりするかと1人計画を立てながら再度欠伸し、重い体を引きずりながら一階へと降りていく。


時刻はまだ4時を過ぎた所だった事もあり、皆まだ寝ているらしく朝食は食べられなかった。仕方がないと思い二階に上がると手短に支度を整える。黒のシャツに黒っぽい青のズボンと言うシンプルな服装に着替え外に何か屋台がないかと外出する事にするのだった。



冒険者の朝は早い。早朝からの依頼もある為だ。その為街の街道には既にいくつかの屋台が出ていた。

朝早いと言う事もあり、街にはまだそれほど人がおらず加えて殆ど店を開けていない。屋台で調理されている食べ物の香りが他の匂いと混ざらず道いっぱいにいい香りが広がっていた。朝からご苦労様ですと心の中で感謝の言葉を述べつつ朝食を取りに一番近くにあった屋台へと入っていった。


後日、知ることになるのだが宿屋によっては4時でも食事をだしているとこはある。ただビルド停で

は出していないのである。理由としては至極単純で

新人が無理して早朝に狩りに行く必要もないとの事らしい。



屋台を覗くとそこでは50㎝程度の鉄板の上でコロッケらしきものを作っていた。所謂、焼きコロッケなんだろう。揚げずに焼くことで無駄な油を摂取せずに済むと言うヘルシー料理だ。鉄板から視線を移すとそこには白いプレートの上にパンに挟まれたコロッケが置いてあった。コロッケパンであろうものだ。



「すいません、このコロッケパン1つもらえますかね」



プレート乗ったパンを指しながら屋台の店主へと尋ねる。



「かまへんけど、これはそない名前じゃなくクロケットパンちゅうんや兄ちゃん、これ食べんの初めてか?」



めちゃくちゃ方言が入った話し方をする店主。おでこが多少隠れる程度の前髪にツンツンした短めの髪型をした30代くらいの割とどこにでもいそうな感じの男だ。見た目はどこにでもいそうな感じだが方言がすごい所為で中々にギャップがある。この世界に来てからここまでの方言を聞いたのは初めてだったのもあり、方言すげぇと感心してしまう。


店主曰く、この食べものはクロッケットパンと言うらしい。コロッケとはあまり似ても似つかない名前だが世界が違えばこうゆう事もあるだろうと思いながら朝が早くて呆けてた、と誤魔化しつつ店主からコロッケパンもどき、もといクロケットパンを受け取ると店を後にした。パンは紙に数回程度巻かれていたので手で直接持っても問題はない。



店を出て宿屋に戻ろうと足を向けるが戻っても特にすることが無いことに気付く。



「そういえばこの街の事あまりしらないんだよな…」



都市アルスに来てから特に街の中を見て回った事がない事に気づき、せっかくだから回ってみるかと考える。気怠さがなくなったわけではなかったが、帰っても何もすることが無かったのもあり探索へと乗り出すことを決めたセリム。先程買ったクロケットパンを包装紙らしきものから取り出し、ゆっくりとした歩調で進みながら少しずつ咀嚼していく。そうして街の探索をしながらだら~とぶらつくセリムだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます