第37話改良案

ギルド資料室での調べものを終え一階に降り報告をする。



「資料室使い終わったんで報告しにきました」


「はい、わかりました。また使用時には声を掛けて下さいね」



報告を終え悪魔狩りは是非ともしたいなと考えながら依頼ボードの方へと歩いていく。ざっと依頼を見てみるが特に悪魔の依頼はない。Aランクの依頼はあるが場所が遠いしまだ受けられるランクではない。まぁそんな事守る義理もないんだが…



「よぉ、セリム。なーにAランクの依頼なんてみてんだよっ」



後ろから声を掛けてきたのは久方ぶりのアーサーだった。



「…そうだな、でなんの用だよ」



棘のある言い方になってしまったのは仕方ないだろう。何故ならアーサーは「面倒を見る」とか言っておきながら闘技のダンジョンの時以来、面倒なんてみてもらっていない。


それどころか面倒を押し付けられてしまっている。コイツ今更何しに来たんだよと言う意味で棘のある言い方になってしまったのだ。



「棘のある言い方だな… まぁいいか。それよりも俺は今日の昼過ぎからエルフの国アルフレイムに行くことになったからキーラの事頼むな」


「頼むなって言われてもな既に面倒をおしつけられてるんだが」



押し付けんなと言う視線で見返すとアハハと笑いながらアーサーは「頼むよ~」と抱き着いてきたのでぶっ飛ばした。




朝から最悪だな、なんて思いながら酒場にて最悪を運んできた張本人とキーラが来るまでの間話をする事にする。



「んで、何で今更アルフレイムなんか? 滅んだんじゃ?」


「少数ながら生き残りがいるっていうから俺は確認しに行くのと復興の手伝いだな」



事件が起きてからすでに一か月近くたっていると言うのに今更手伝いとは…とは思いつつも口には出さず「そうか」と納得したと言う意思表示をするだけけにとどめた。それを聞くとアーサーは立ち上がりギルドから出ていった。


後ろ姿を眺めながら悪魔のことを再び考える。



(Aランクで二万弱となると今現在ギリギリ勝てるレベルだが…)



青剣(せいけん)つくってもらうかと思っていた所にちょうどキーラが現れる。もう見慣れた光景だ。近頃は周りの冒険者ーー主におっさん共だがーーに冷やかしを受けるようになってしまった。


「お似合いのカップルだ」とか完全におもしろがりながら言っているのを聞き、殴りたくなったがキーラが「ち、ちがうわよ」と激しく抵抗しだしたのを見てついいたずら心が芽生えてしまうのも無理ないだろう。肩に手を置き「my honey」と囁くと魔法をぶっ放され結構効いた。



「今日は依頼を受けずに各自自由行動としよう」



セリムが今日の予定を提案する。最近はキーラに構ってばかりだったのでここいらで少し戦力アップに努めようと考えての事だ。



「わかったわ」



セリムの提案に素直に従うキーラ。まさか素直に聞くとは思ってもみずつい訝し気な表情を浮かべてしまう。だが、素直に従ってくれるならそれに越したことはないなと考え、椅子から立ち上がりギルドを出ていく。





ギルドを出て向かった先は鍛冶屋だった。ドアをくぐるとベルが鳴り、客の入店を知らせてくれる。それと同時にここの店主でもあるバロックが顔を出す。



「おぉ、セリムか」


「どうも」



軽く挨拶をし今日鍛冶屋を訪れた要件を伝える。



「と、後ろの嬢ちゃんは誰だ?」



これか?と言いながら小指を立てるおっさんドワーフ。ったく、どいつもこいつも何なんだと思いながら否定する。


ここで急に後ろを振り向き「何で付いてきてんだよ」等とは言わない。今日は自由行動だからストーキングしようが勝手だろうからな…



「それで今日は、新しいアイディアが浮かんだんで試して貰おうとおもいまして」



「ほおぅ」と感心を現す声を上げながら聞く姿勢に入るバロック。ついでにキーラもちゃっかり隣に来ている。まぁいいかと納得し考え付いたアイディアを話し出すセリム。



「魔法陣を描いただけだと伝達速度の問題があるとこの前言ったの覚えてます?それで考えたのですが一つの魔方陣で全体に魔法をかけるのではなく、手袋ならば手の甲、各指に増やすことで速度、強度を上昇させられるんじゃないかと思うんですけど」



バロックは「んー」と唸り声をあげ髭の生えた顎を撫でる。キーラは隣で何の話か分からず終始「何の話よ?」と聞いてくるがドワーフがいる所為なのかいつもより声が小さい。



(そういえばバロックのおっさんはエルフ平気なのか?)



「そうじゃなー、それなら問題は解決するじゃろうが、前のよりも製作に時間も金もかかるな」



バロックが改良案に対しての答えを告げるがそれは前作の問題を改善するものではあるがコスト面と言う問題が大きくなると言うものだった。



「そういえばこれって誰かに試供品として提供とかしました?」



自分一人のアイディアだけでは難しいなと思い以前から考えていた他の人の意見を取り入れると言うものはどうなのかと尋ねる。



「まだだが、そうだなそろそろ配布するか。ほれ、そこの嬢ちゃん」



ほらよっとカウンター裏から手袋を取り出し投げ渡す。多少驚きながらも投げ渡された手袋を受け取り「これは?」と尋ねてくる。バロックが「これは~」とか「そんで~」とか説明する。



「なるほど、セリムって結構頭いいの?」



頭良いとか聞く奴は大抵バカっぽく見えるなと考えつつ適当に返事をし使ってみるか?と提案する。「もちろん」使うわと即答で言い放つキーラ。



「取り合えず、試供品として配っといてください。金の方はある程度工面しますんで」



「それは助かるな」と笑いながら改良案についての話を終え店を出る。店を出るとキーラは使いこなす為に練習するわと一言だけ言い残し分かれた。キーラと別れたセリムは一人森へと向かいモンスター狩りに行くのだった。






アーサー率いる数名がエルフの国アルフレイムへと向かった二日後。その日、都市アルスにモンスターの大群が押し寄せたと言う一報が入った。


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