第12話 メロスよ永遠に。 妹と共に

 一方、メロスの故郷、村では。


「おーいメロス、この椅子はここでいいのか」


「ああ、そこで頼む」


 山賊たちの男手によって、結婚式の二次会は着々と進んでいた。


「あんた達、きりきり働きなさい!」


「「「「はぁい!」」」」


 山賊どもは、はたから見れば無法集団に見えなくもなかった。

 そのため、村の一部の者は、彼らを直視しなかったが―――。

 しかしメロスの妹の指示に対しては、ものすごく素直に従っていた。

 デレデレしていた。


 山賊という無法集団を動かすのは、厳格な法ではない。

 規律でもない。

 王でもない。

 可愛い妹なのだ。


「山賊はしばらく、この村で働くことに決めた、か―――俺の出番ねぇな」


 セリヌンティウスは、料理をつまみ食いして、しつつぼやいていた。


「セリヌンティウスよ」


「なんだ、メロスよ、もぐもぐ………うむ、これは美味い」


「何か―――面白いことを、しろ」


「…?」


 飲みかけの果実水を、ぼたぼたと、口から垂らしてしまう友人。


「なんでだ、メロスよ」


「つまりだ、この妹の晴れ舞台の二次会で、だ。何か面白い芸をやって、それで盛り上げるのだ、結婚を祝うのだ、大いに」


「できるかなぁ、俺に………」


「出来るさ」


 出来る。

 何か―――あまり立派でなくてもいい。

 立派でないほうがいい―――むしろ。


「モノマネ、モノマネをやるのだ、セリヌンティウスよ。以前、旅芸人の者を見ただろう」


「いや、それよりもメロスの真似をやるよ」


「え」


「では、メロスの真似だ。メロスの真似………を、する」


 セリヌンティウスは、口と、顎のあたりを少しだらけさせ、表情を変える。

 視線をばらけさせ、可能な限り知能が低そうな表情を作るセリヌンティウス。


「『俺の妹ってさぁ、控えめに言ってェ、世界一可愛くねぇ?』


「おいやめろ、それ―――セリ、お前、俺そんなこと言ってねぇだろ」


「『俺の妹と結婚して、そして妻になっても『お兄ちゃん』って呼ばせるのが俺の夢でェ、


「やめろっつってんだろ!」


「ぐほッ!」


 メロスはセリヌンティウスに平手打ちを入れ、よろけたところにキレのある回し蹴りを叩きこんだ。






 それからは。

 メロスや、山賊といったゆかいな仲間たちは、村でそこそこに幸せな生活を送りましたとさ。





 太宰治先生、ごめんなさい。

 ありがとう。

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妹の結婚式のために走る(走れメロス) 時流話説 @46377677

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