きもだめし/Test of a courage

長束直哉

きもだめし

 これは、私がまだ小学生だったころの話だ。


 夏休みも後半に入ったころ、近所の友達連中が五・六人ほど集まって、〝きもだめし〟をしようという話になった。


 私が生まれた町の中心には小さな山があった。

 その山の麓に小さな祠があり、すぐそばの一郭には墓地があった。

 〝きもだめし〟の場所は、そこに決まった。


 一旦解散していたが、夕方の指定時間には、集合場所にみんなが揃った。

 発案者が、それぞれの名前を書いたメモを作ってきていた。


 私達は墓地から五十メートルほど手前の街路灯の下にいる。

 そこから、一人ずつ順番に墓地の中央のお墓まで行って、確かに行ったという証に自分の名前を書いたメモを墓石のお供え物を置く供台の上に置いてくるという趣旨のものだった。


 その前に、各自が持ち寄った怖い話を順番にして雰囲気を盛り上げる。

 そうしているうちに頃合いのいい時刻になってきた。


 挑戦する順番は、じゃんけんで決めた。

 夜も更けてきて、月明かりでぼんやりと浮かぶ墓地は、、〝きもだめし〟にはうってつけの雰囲気を醸し出してきた。


 早速、一番目の挑戦者がスタートした。

 私達はそれを、固唾を呑んで見守る。


 一番目の彼は勇んでスタートして行ったはずなのだが、ものの半分も行かぬうちにすぐに引き返してきた。 

 みんなが嘲笑しながらその友達を迎える。


 そこから時間短縮の意味もあって、誰かがスタートしたあと二分経てば、次の者が間隔を取ってスタートするというルールを付け足した。


 二番目は私の番だった。

 月の光に浮かぶ墓地は、昼間見るのとは全く違って異様さを増す。

 普段から、この原っぱで遊んでいた私は、思ったほど恐怖心もなくすんなりと目的のお墓まで辿り着けた。

 

 言われたとおりにメモを置き、みんながいるほうに目を向ける。

 薄暗い中を、次の挑戦者がやってくるのが見えた。


 この時ふと私の脳裏に悪戯心が芽生え、あの友達を驚かそうと、墓の後ろに回り込んで、やってくる友達を待ち伏せした。


 しばらくそうしていると、その友達が私が隠れているお墓のすぐ近くまでやってきた。


 「うううぅぅ……」

 私は内心北叟笑みながら、喉を絞った声色を発した。


 その時――。


 私の背後から、「うぐぐぅぅ……」と、地の底から聞こえてくるような苦しそうな呻き声が……。


 ――えっ?


 そう呟いたと同時に、


「うわぁぁー!」

 墓の近くまで来ていた友達が突然叫び、踵を返しにみんながいるほうへと一目散に走っていく。


「火の玉だぁ~!」

 友達が叫ぶ。


 私は恐怖の中に一人取り残され、墓の影から飛び出すと言葉にならない声をあげながら友達のあとを追った。

 その場所から離れた時、いったい何があったのか気になり、怖い物見たさに私は後ろを振り返った。


 すると――


 先程まで私が隠れていた墓の上に、幾つもの蒼白く光る浮遊物がふわふわと浮かんでいた。




 そのあと、私は父親の仕事の関係で他府県に引っ越しをした。

 何年か経って、久し振りに帰った故郷は何処も彼処も変貌を遂げ、私の思い出は微か遠くに追いやられた。

 今でもあの時の声は私の耳の奥に残っているが、あの場所は今はもうない。

 都市開発の一環で、山そのものがすっかりなくなってしまっていた。

 その場所は、今では大きな公園になっている。

 そして、その公園の片隅に小さな祠がポツンと残っているだけだった。


 何気にその祠を覗き込むと、そこには古びた一枚の紙切れが――。


 ――ん?


 興味本位で私は、その紙切れを手に取った。

 何かが書かれてある。


 ――何だろう?


 色褪せて薄くなったその文字をよく見てみると……。


 そこには――


 子供が書いたかのような拙い字で――。


 私の名前が……。


 ――こ、これは……。


 そう思った瞬間、私の背後から声がした……。




「お……か……え……り……」




     <了>


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きもだめし/Test of a courage 長束直哉 @nagatsuka708

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