第63話 第二次エブロネスの戦い
ベルトレは部隊の最前線に立ち、橋を渡ってくる敵を凝視している。
「我らの武勇を見せつけてやるぞ! とつげぇぇぇき!」
鼓舞するように叫び、ベルトレは大剣を鞘から抜いて、真っ先に敵へと向かって行った。
エレオノールは兵士たちに混じって、ベルトレの背中を見た。
誰よりも大きく、彼についていけば勝てる。
そんな気になってくる。
彼女は剣を抜き、兵士たちとともにベルトレの後に続いた。
「どうした、その程度か! それではこの俺を止めることなどできんぞ!」
ベルトレが大剣で敵を薙ぎ払う。
人が木っ端のように吹き飛ばされていく。
彼が血路を開き、その後ろから兵士がなだれ込む。
もはやどっちが寄せ手なのかわからない。
ベルトレ軍の圧倒的な力が、敵軍を押し込んでいく。
ベルトレが橋で優位を確保している一方で、他でも戦端が開かれていた。
「こっちに敵が来たか」
自分たちより多数の敵が川を渡ってくるのを見ながら、クロヴィスが言った。
防御陣地は万全とは言えない。
けれど撃退できるという自信はある。
「ダヤンにこちらへ軍を向かわせるよう伝令を出せ!」
増援要請の他に、敵の先鋒が上陸するまで攻撃を控えるように命令を出した。
渡河してくる敵を叩くのは、すでにシャンポリオン公との戦いで経験し、そして勝利している。
過去の実績から来る自信から、思わず笑みが零れた。
自分はベアトリクスとの勝負を楽しんでいるのか?
クロヴィスは自らの気持ちに恐怖した。
理想の同じくする彼女と戦うことに疑問はある。
しかし彼女のやり方では、理想が歪む可能性がある。
旧来の貴族勢力との婚姻により、その勢力を巨大化させた。
それでは大貴族が政治を私物化し、民衆を顧みず政争に明け暮れる時代が再来するかもしれない。
古い勢力が残り、ロンサール公とシャンポリオン公のように、民衆を導く理想もなく、ただ権益のための抗争を行う時代なんて、終わりにしないといけない。
それでも、彼女はどういう世界を作るのか見てみたい気持ちは、クロヴィスの心にある。
和平を結ぶ。
彼の頭にそれがよぎった。
戦争を終わらせ、南北でそれぞれの理想を実現させる。
そのためにここで勝利し、それを材料に和平へと動けばいい。
陛下だって、きっとわかってくれるはずだ。
クロヴィスは遠く離れた玉座の主に思いを馳せた。
皇帝を補佐して、民衆のための理想を作り上げる。
そのために戦ってきた。
皇帝自身も、民衆を思う気持ちはあるだろう。
「平和と理想のために」
一人呟いて剣を抜いた。
彼の目には、上陸してきた敵の先鋒部隊が映った。
剣を掲げ、その時を待つ。
「矢を放て!」
剣は振り下ろされた。
矢嵐が先鋒を襲う。
川岸に何人倒れても、恐れることなく押し寄せてくる。
「弓兵は下がれ。槍兵は前面に出て迎え撃て」
多勢が相手でも、冷静にクロヴィスは指示を出す。
勝ったことのあるシチュエーションだ。
何も恐れることはない。
自信が彼の心を安定させた。
******
「やはり城から出てきたか」
フランクールは出撃してきた城兵を見ながら、吐き捨てるように言った。
「雑魚は大人しく城の中で寝ていればいいものを」
「ですが叩ける機会でもあります」
傍らのマネを見て、フランクールはうなずいた。
「それはそうではあるな」
面倒くさそうに、彼は後退を指示した。
秩序を維持したまま、整然と後退していく。
撤退を指揮するフランクールは、最前線に立って戦うブラッケの姿を見た。
倒れた兵士をかばいながら、こちらの手勢を追撃を指揮している。
それを見ながらフランクールは策を考えた。
「そろそろ反撃の頃合いでは?」
「ああ、そうだな」
マネに促され、思案の世界から帰ってきた。
「奴らの脆弱な側面を叩け!」
突出したブラッケ軍を、側面から矢を浴びせかけた。
次々に倒れていく兵士を見て、ブラッケは深入りしたことを理解した。
「くそったれ! 引け、引け!」
彼は退却を命令したが、フランクール軍の側面攻撃は矢から、槍による突撃に速やかに移行した。
「側面からの締め上げが早いな」
ブラッケは部下の撤退を支援しつつ、フランクールがいるであろう方角を睨んだ。
彼は退路を確保するため、包囲しようと背後に回り込もうとする部隊に斬り込んだ。
「俺の戦いぶりをとくと見よ!」
大剣を枝のように振るい、群がる兵士を血祭りに上げていく。
彼は武勇を味方にも見せつけ、敗走する味方を勇気づけた。
崩れてはいるが、恐慌に陥るギリギリで踏みとどまるブラッケ軍に、フランクールは敵将の統率力と信頼を見た。
「なるべく捕虜を多く取るようにしてくれ」
「ずいぶんと難しい指示をお出しになるのですね」
「いいから言う通りにしろ」
マネに指示を出すと、彼はフランクールの前から退出した。
「ブラッケも所詮は私の名を挙げる存在に過ぎんのだよ」
諧謔的な笑みを浮かべ、フランクールは戦況を眺めた。
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