第51話 乱世に相応しい男
クロヴィスは城外の敵を壊滅させ、退却したロンサール公を追って、帝都を目指している。
そんな彼にリュカが報告をもたらした。
「ボワイエ侯が敵軍を全滅させたのか。ここまで大戦果を挙げるとは思わなかった」
望外な勝報にクロヴィスは驚いた。
「それと、降伏したいと、フランクール侯爵が訪れています」
「通してくれ」
クロヴィスの陣中に、豪華絢爛な軍装に身を包んだ、長身の若者がやってきた。
「ラグランジュ伯に降伏を願い、ここへ来ました」
「降伏は受け入れましょう。ですが、なぜボワイエ侯ではなく、私なのですか?」
問われたフランクールは思わず苦笑した。
「実質的な最高司令官があなただからですよ。どうせ
シュヴァリエがいれば何か言い出しそうだなと、不敵な男を見ながらクロヴィスは思った。
「確かに戦略を立てているのは私です。ともかく、降伏は受諾します」
「せっかくここまで来たのです。幕僚の末席にでも加えてもらえますか? 私のことは臣下と思ってください」
そう言うと、跪いて頭を下げた。
本物の強者であれば、礼を尽くす。
それが彼の考え方だ。
「わ、わかった。共に戦おう」
臣下と思えと言われて敬語をやめたが、クロヴィスにとっては違和感がある。
そんなことを気にかけないフランクールは、顔を上げ自信ありげな表情をクロヴィスに見せた。
「ところで、伯爵は何を為そうとしているのですか?」
「えっ」
根源的な質問をされて、クロヴィスは虚を突かれた。
「ただ権力を求めているのか、それとも既存の枠組みに沿った改革か。はたまた抜本的な革命か」
「今の大貴族はだめだ。人民を救うには、統治のあり方を変えなければいけないと思っている」
「貴族の所領を没収し、他の何かに置換する、とかですか?」
「ああ、そうなるだろう」
フランクールは高笑いをしてみせた。
「面白い。今いる貴族共は混乱するだろう。ボワイエ侯や皇帝も伯爵の敵に回るだろう。今後の展開が楽しみだ。こんな愉悦を味わえるのなら、私の所領を伯爵に献上しても惜しくない!」
狂人だ。
吹き荒れる暴風に悦びを見出している。
乱世に特化した時代の怪物とでも言うべきだろうか。
「伯爵が私を楽しませてくれる限り、臣下であり続けますよ。もし、つまらなくなったら、自分で盤面を面白いものにしてみせましょう」
「謀反の予告か?」
「それは伯爵の能力次第で。私は有能だと思い、だからここに来たわけです」
「待ってください!」
リュカが二人の会話に割って入った。
「侯爵殿は危険すぎます! それに敵の罠かもしれません」
「いや、大丈夫だ。ロンサール公に、これほど自己主張の強い人物は耐えられないだろう。それにここまで言うのなら、そう簡単に謀反は起こさない」
「言い得て妙ですね。全くその通りです。ロンサール公は愚鈍でつまらない」
謀反のことについては触れなかったが、クロヴィスにはそれで問題なかった。
フランクールにとってつまらない事柄だから、触れなかっただけに過ぎない。
「ボワイエ侯の軍はどのように動かすおつもりですか?」
「さきほど連絡をもらったばかりで、まだ未定だ」
「ではさっそく献策させていただきます」
いきなり作戦の話を始めて、リュカは困惑の色を隠せなかった。
「降伏下ばかりの人物なのに、作戦行動の話をするのですか」
「ああ、そうだ。心配しなくても大丈夫。信じてくれ」
クロヴィスにそう言われれば信じるしかない。
「ボワイエ侯軍は東部に侵攻させず、こちらと合流してロンサール公との決戦、帝都攻略に参加させるべきでしょう」
クロヴィスは根拠を聞いた。
「東部から来た軍勢は、すでに壊滅しています。なので東部に攻め込めば、大した抵抗もなく広大な領土が手に入るでしょう。ですが、まだロンサール公は大軍を擁しています。そちらが優先かと思います」
「土地より人を攻めろということだな。その通りだ。ボワイエ侯軍をこちらに呼んで、ロンサール公との決戦に臨む」
******
ロンサール公は憮然とした顔で、帝都エティエンヌに凱旋した。
その軍勢は出撃時に比べれば少なく、そして悄然としている。
「閣下、南方に派遣した正規軍が敗走し、散り散りになりました」
「そうか……」
ブランシェ伯の報告に心ここにあらずといった風に答える。
「敗北が決まったわけではありません。正規軍一万人はここまで帰ってきています」
「まだ、まだ戦えるんだな?」
にわかに戦意を取り戻したロンサール公は、一万人の敗残した正規軍をまとめてここまで来た人物を呼び出した。
「行方不明になった将軍に代わり、残された兵を率いたアラン・ジルーです」
ガタイのいい髭面の男は膝をついて頭を垂れた。
「よく帰ってきた。ところで平民に出であるのか?」
ジルーは「はい」と手短に答えた。
「平民でありながら、兵をまとめて過酷な撤退戦を遂行した責任感。私はそこを評価する。次の戦いでは、私のもとで大事なところを任せるだろう」
ロンサール公はジルーの肩をポンと叩いた。
頼みにされている。
けれどジルーは違和感を覚えた。
「平民でありながら、撤退戦を遂行した責任感」
ロンサール公は生まれで評価していた。
しかも平民は本来責任感がないものという認識だった。
ジルーは自分の居場所はここではないと思い始めた。
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