Int.15:Agile Wings./銀翼、彼らの往く先もまた死地か
「例の作戦、俺たちの任務内容が変更になった」
所変わって、国防空軍・小松基地。この日もまたブリーフィング・ルームに集められた玲二以下の第307飛行隊≪レイピア≫の面々が、飛行隊長の津雲真からそう知らされたのは、一真らA-311小隊と≪ライトニング・ブレイズ≫が出撃命令を受けたあの日から、数日が経ったある日の早朝のことだった。
「隊長、変更って……?」
と、壇上に立つ津雲に向かって言うのは、玲二の隣に座る"ブービー"こと三柴少尉だ。眼鏡を掛けた横顔は、その声と同様に、今日も相変わらずオロオロと弱々しく。いつものことではあるものの、抱かせる印象はやはり何処か頼りない。
そんな三柴の問いかけに、津雲は「ああ」と相槌を打ち。それからブリーフィング・ルームの蛍光灯を消し部屋を暗くすると、「まずはこれを見てくれ」と言い、自身のすぐ後ろにあるスクリーンへとスライドを投影させる。
映し出されたのは、淡路島とその周辺の海域を模した簡略的な地図だった。島の数ヶ所に伸びている矢印が示すのは、作戦の進行経路と見て間違いないだろう。パッと見ただけでも、投入される人員や兵器の量が、今まで玲二の経験してきたどの作戦と比べても桁違いなことが分かる。
だが、それら進行経路を示す矢印に、幾つか覚えのないモノを見つけ。玲二は「ん……?」と疑問に小さく首を傾げた。確か事前に聞いていた話では、島の南方からも攻めるなどということはなかったはずだ。
「作戦の第一段階に変更はない。島の北方、及び西方の数ヶ所から強硬上陸。地上部隊が淡路市、及び旧・明石海峡大橋の二箇所を橋頭堡として確保する。その第一段階に於いて、爆装した俺たちが空爆で支援することも変わらない。
――――だが、問題は作戦の第二段階だ」
と、津雲はスライド操作用のリモコンをレーザーポインター代わりにし、スクリーンに出てきた赤い点をくるくると回せば、島の南方を玲二たち307飛行隊の部下たちへと示した。
どうやら、玲二が考えていたように、あの南方戦域が例の第二段階らしい。そもそも第一段階までしか玲二たちは聞かされていなかったから、津雲の口から"第二段階"と言葉が出てきた途端、玲二以外にも美希や、三柴も南方戦域の矢印がそうだと感づいていた。
「島に六匹のデストロイヤー種が侵攻したことは、前にお前たちに話した通りだ。現在でも奴らは島の南方に留まり、奪還作戦に於ける目下最大の脅威となり続けている」
「まさか――――!?」
ハッとした玲二が思わず声を上げると、苦々しい顔で津雲が「その通りだ、風見」と玲二の方をチラリと見ながらで頷く。
「六匹のデストロイヤーを、奇襲攻撃で以て叩く。それが淡路島奪還作戦、第二段階の主目標だ」
やはり、そうなってしまうのか。
玲二も、そして美希や三柴も。津雲の口からそんな無茶苦茶な話を聞かされてしまえば、示し合わせたでもなく揃って息を呑む。津雲もまた、皆に聞こえないよう小さく溜息を漏らしていた。
そんな彼らの反応も、当然といえば当然のことだ。全高40m、八本脚の巨体を誇るデストロイヤー種は、一匹だけでも戦艦級の脅威に相当する最悪の敵だ。デストロイヤー種自身からの対空砲火も激しく、それに他の対空種族も奴の上部、ないしは周囲に展開しているのが常で、超音速の戦闘機であっても空爆を行うことは決して容易ではない。
それを、六匹も同時に相手にしろと言われているのだ。それがあまりに無茶なことなのは、この場に居る誰もが理解していることだった。だからこそ、その命を受けた彼ら307飛行隊の四人は、揃ってこんな反応を示しているのだ。
「……話を続ける」
沈んだ空気感の中、津雲は小さく咳払いをし。それから、玲二たちへのブリーフィングを再開する。
「第二段階の主軸は、島の南側から見て、北西と南東海域の二方面から突入を図る陸軍、及び米軍のT.A.M.S部隊だ。俺たち307飛行隊は、南東より侵入する連中のCASに当たる」
CAS――――クローズ・エア・サポート。近接航空支援。
つまり、誘導爆弾や機銃掃射、空対地ミサイルを使っての直接的な航空支援任務だ。低空での対地攻撃が強いられる局面が多く、危険度は決して低いとはいえない任務。ましてデストロイヤー種が六匹も巣くう南方戦域にあっては、かなりの苦戦を強いられることは目に見えている。
「増槽かCFTか、とにかく燃料をてんこ盛りにして出来る限り空域に留まり、必要に応じて対地支援に就く。それが俺たちの役割だ。
……安心しろ、作戦空域の外、島の周辺空域には常時、空中給油機がスタンバイしてる。燃料切れで海水浴と洒落込む必要はないってワケだ」
後半を冗談っぽく津雲が言えば、自然と隊の雰囲気は綻び。ほんの微かな笑い声が飛び出すほどだった。
…………が、そんな風に笑いながらも、やはり表情は皆、何処か深刻そうでもあった。
「とはいえ、作戦の肝は百里の701飛行隊、
ブリーフィング・ルームに漂う深刻な雰囲気を、敢えて無視するようにして。津雲は更に話を続けていく。
「俺たちが支援する連中、南東から突入する部隊は幾らかがある。作戦に参加する米海軍の空母、USSロナルド・レーガンからも幾らかのT.A.M.S空中機動中隊が参加するらしいが、俺たちが主に支援するのは、それとは別の部隊だ」
「別の部隊……?」
そう独り言のように呟いたのは、美希だった。細い声音で、疑問符を浮かべるように。
そんな美希に、津雲は「そうだ」と頷き。そして、スライドに新たな画像を表示させた。
「京都士官学校・A-311訓練小隊。そしてそれに同行する中央直轄の特殊部隊、第202特殊機動中隊≪ライトニング・ブレイズ≫。
――――喜べ、お前ら。ルーキー連中と死神部隊。それが俺たちの運命共同体だ」
ニヤリと笑う壇上の津雲と、その背中の向こう側にあるスクリーンに映る、稲妻を模った部隊章。その名も、その噂も。玲二も美希も、そして三柴ですらも。確かに聞き覚えがあった。
「≪ライトニング・ブレイズ≫……」
「死神部隊、噂には聞いたことがあるわ……」
闇に紛れる色をした、不気味な漆黒のT.A.M.S。敵味方問わずに死を運ぶと謳われた、死神部隊と揶揄されし生え抜きの精鋭たち。戦場で彼らの姿を見た者は皆、死ぬことを運命付けられるというジンクスすらもが、兵たちの間でまことしやかに噂されている精鋭部隊だ。
「…………」
しかし、そんなことよりも。死神と揶揄された彼らのことよりも、玲二には前者の方が気掛かりだった。
「訓練小隊って……まだ、正式任官もされてない子供じゃないか」
――――A-311訓練小隊。
そんな、明らかにこの作戦に参加するには不適な彼女たち。その名がこの場で上がったことが、どうにも玲二の胸には引っ掛かって仕方なかった。
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