Int.73:ブルー・オン・ブルー/蒼の衝撃

「なんだ、あの蒼い奴……!?」

 データリンク通信で白井とまどかの機が捉えた視界を共有し映し出すオペレーティング・デスクの画面をCPオフィサーの美弥と共に凝視しながら、西條は戦慄を隠そうともしないでそう、ひとりごちていた。

「日本製……ですよね、多分」

「間違いない」同じく戦慄した顔で呟く美弥の言葉に、西條が頷く。

「JS-16E≪飛焔≫。本来なら特殊作戦用の機体だ。早々出回る代物でもない」

「でも、じゃあなんでそんなのが?」

「分からん」

 困惑する美弥にそうやって首を横に振った後で、西條は「だが、それは問題じゃない」と続ける。

「…………野郎、私の見立てが正しければ、かなりの手練れだ」

「手練れ……ですか」

「見れば分かる」頷く西條。「あの余裕に立ち振る舞い、相当な修羅場を潜ってきた奴にしか出来んよ」

「修羅場……」

「それこそ、嘗ての私らクラスの修羅場だ。……まさか、オーストラリアの時に居た奴か?」

 顎に手を当てながら、放つ言葉を次第に独り言へと変えながら西條が唸り始める。

 しかしその間にも、戦闘は進行していて。ドスンという衝撃が指揮車を襲えば、それが指揮車を積んだ輸送モジュールがヘリから切り離され、パラシュートとロケット・モーターの逆噴射で陸地へと軟着陸したものだと二人は自ずと悟る。

「着地成功! 指揮車、避難させる!」

 そうして、振り返った指揮車のドライヴァーにそう告げられれば。西條は「頼んだ!」と一瞬眼を合わせて叫び返してから、再び美弥の見るオペレーティング・デスクへと視線を戻す。

「……二人を後退させます。もし教官の仰るような手練れだとしたら、二人ではとても」

「ああ、頼む」

 渋い顔での美弥の提案に二つ返事で西條は頷きながら、再びデスクの画面に映るその蒼い≪飛焔≫を見た。

「――――06、09! 後退してください、二人でそれの相手は無茶ですっ!」

『ンなもん、出来たらとっくにやってらァ!』

『逃げられるものなら、今すぐに逃げたい気分ですが……!』

 しかし、白井とまどかの二人は美弥の制止も聞かず――――いや、聞けず。結局、その蒼い≪飛焔≫との交戦を開始してしまう。

「……ヴァイパー06、09。交戦開始です」

 そうすると、美弥が酷く残念そうにそうやって西條に報告する。それに西條は「だろうな……」と頷いて、

「逃げられる局面でも、相手でもない……。――――美弥、一番近くで応援に行けそうな奴らは?」

「少し待って、五秒ください。

 ――――現状で最も近く、そして降下が可能な高度にあるのは04と07。ステラちゃんと、霧香ちゃんの二機です。それでもCH-3の回避行動の為、今暫くの時間は必要みたいですが……」

「あの二人なら問題ないだろう。美弥、至急ステラたちを二人の支援に向かわせろ。可及的速やかに、だ」

「了解です」

 輸送モジュールの中から飛び出していく82式指揮通信車の中、美弥が淡々とした明瞭な、しかし何処か焦りの色を織り交ぜた声色でステラたちに西條の命令を告げていく。

 その横で、西條は尚も蒼い≪飛焔≫を見ていた。今はOH-1偵察ヘリの索敵センサが映す俯瞰視点での映像だが、しかし、余計にあの≪飛焔≫のパイロットが如何に手練れかが見て取れる。

「……それにしても、何者だ? あの≪飛焔≫のパイロットは……」

 此処に来て、西條の頭に過ぎるのはそんな、こんな状況下ではある意味呑気とも取られかねないような疑問だった。

 ――――そうだ、本当に何者なのか。あのレベルのパイロットならば、国防軍に居る人間ならば西條に覚えが無いはずがない。あれほどの腕を持つ人間、まさしくエース・パイロットか、それに準ずる存在だろう。

 海外から呼び寄せた人材、という線も考えられた。しかし乗機は特殊作戦用のJS-16E。特殊部隊に少数配備されるような、それこそJS-17C≪閃電≫と同世代の機体だ。そんな新鋭機、幾らある程度は共通規格で造られているTAMSといえども、国外の人間がおいそれと乗りこなせるとは思えない。

(……本当に、誰なんだ)

 故に、その西條の疑問が解決されることは、ひとまず今の時点では有り得ないことだった。

 西條はただ、オペレーティング・デスクの画面に映るその蒼い≪飛焔≫を見続けていた。解決する糸口の見当たらない、深い疑念を胸の奥底に渦巻かせながら……。

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