Int.28:人無き街並み、立ち尽くすは人ならざる鋼鉄の人形
本州島の西、中国地方。岡山と広島の県境にほど近い場所にあるとある市街地の中を、十機の巨人たちが鋼鉄の足を鳴らし、歩いていた。
避難命令が発令され、既に市街地には
『――――スカウト1よりヴァイパーズ・ネストへ報告。敵集団を目視、西方より接近中。数はおよそ三五〇から四百、推定で六百秒後に接敵』
『ヴァイパーズ・ネストよりスカウト1、了解です。……ヴァイパー各機、交戦準備を。マスターアーム・オン』
今回も小隊の支援に当たってくれているOH-1"ニンジャ"偵察ヘリコプター、コールサイン・"スカウト1"と美弥との短い事務的な会話を聞きながら、美弥の放った最後の指示に一真は「ヴァイパー02、了解」と返しながら、トグル式スウィッチの火器安全装置、マスターアーム・スウィッチを安全位置のSAFEから、解除状態のARMへと指先で弾く。
『……っ、対空砲火が激しいな……。
――――こちらスカウト1、敵の対空迎撃が苛烈の為、一時後退する。ヴァイパー各機、気を付けてくれよ。"アーチャー"も"ソルジャー・アンチエアー"も、今回は数が多い』
そんな、少しの焦燥を交えたスカウト1の言葉に、美弥は『ヴァイパーズ・ネスト、了解です』と明瞭な声音で返すと、
『スカウト1はホールディング・エリア1まで後退。別命あるまで低空にて待機してください』
そうやって指示を告げれば、スカウト1は『了解』と短く返し。ともすれば、一気に方向転換したOH-1は加速度的に高度を下げ、一真たちの上空をかなりの低高度でフライパスしつつ後退していった。
『飛び道具持ちが多い、ってか……』
後退していくOH-1の機影を見送りながら、既に後方にて配置に着いていた白井がそう、ポツリとひとりごちる。それに一真が「ん?」と反応すれば、
『いや、だとしたら厄介だなって思ってさ。……初撃のミサイルでどれだけ減らせるかが、やっぱり肝だろーな』
「ミサイラーの二人、今回の弾頭はクラスターだろ? 割と当たってくれるんじゃないか?」
『そう願うしか無いぜ。これ以上俺の仕事が増えちまうようなら、それこそ過労死案件だ』
「ヘッ、違いねえ」
そんな風に冗談を飛ばしあっていれば、しかし途中で『02、06。無駄口は慎め』と西條に疎められてしまう。
『そろそろ接敵するんだ、もう少し緊張感のひとつでも持ったらどうだ?』
『へへっ、すいやせん教官』
呆れたような物言いの西條に、白井が半笑いでそう返すのを聞きながら。ふと思い出した一真が、こんなことを西條に訊いてみた。
「そういや、
そんな一真の問いに、西條は小さく溜息をつき。『……分からん』と小さく答え、
『どうやら、前線の方もかなり混乱してるらしいからな。……私らの所まで情報が降りてこないってのが、正直な所だ』
憂いと呆れの入り混ざった、そんな西條の言葉に、一真は返す言葉を知らず。ただ短く「……そう、ですか」と頷くことしか出来ない。
『とにかく、背中にも気を張るしかないってことだ。……スカウト1、後方警戒を密に頼むぞ』
『了解です、ヴァイパー00。……何、どうやら今回は俺たちも、ミサイルさえブッ放しちまえば暇を持て余しそうだ。後ろの見張りは、任せといてください』
頼もしく告げる、そんなスカウト1の力強い言葉に。西條はフッと小さく表情を綻ばせると、『……頼りにさせて貰おう』なんて風に、小さく頷いた。
『――――ヴァイパー01より前衛、中衛遊撃各機。約六十秒で敵の先鋒が交戦レンジに入ります。準備を』
そんな折に挟まってきた錦戸の言葉に、一真は短く「ヴァイパー02、了解」と返し。前方数十mの向こうに見える錦戸機、黒灰色のJSM-13D≪極光≫の背中を見ながら、両手で強く操縦桿を握り直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます