Int.22:出撃準備、寡黙なる男たちの双肩
「≪新月≫と≪叢雲≫の爆装が最優先だ! 他は順次、兵装チェックの終わった機から外に出せ!」
それから一時間もすれば、士官学校のTAMS格納庫は凄まじい慌ただしさに包まれていて。三島の怒号が格納庫中に木霊すれば、ワイヤー・クレーンで釣り上げられた六連装の90式多目的ミサイル・ランチャーのコンテナが、まどか機の≪叢雲≫の肩へと装着され始めた。
並べられた巨大な突撃機関砲用のカートリッジたちと、そこに接続したシューターで膨大な量の20mm砲弾を装填していく者や、整備ハンガーに直立する機体の装甲、その一部分にあるメンテナンス・ハッチを開いて出撃前の最終点検を手早く行う者。それに、各種機材や予備部品の山を担いで格納庫を忙しなく行き交う者など、そんな具合な整備兵たちの慌ただしい動きで、格納庫は史上類を見ないほどの忙しさに慌てふためいているのが見て取れる。
「……こうして見ると、メカもラクじゃないな」
十機のTAMSの出撃準備が着々と整えられていくその光景を眺めつつ、全開に開かれた格納庫扉の近くにもたれ掛かりながらの一真が何気なしに呟けば。それに、隣に立ち腕を組む瀬那が「うむ」と頷く。二人とも、まだパイロット・スーツには着替えていなかった。
「……ん? なんだ、坊主じゃねえか」
そうしていれば、そこら中に指示を飛ばしまくっていた三島が二人の姿に気づき。「珍しいな」なんて言いながら、ニヤニヤとしつつこっちに近寄ってくる。
今日は昼間だけあって、いつものトレードマークめいたランドルフのアヴィエーター・サングラスを掛けていた。黒の偏光レンズが、皺の寄った老練な顔付きに似合い、眩しい。
「手前の嫁までご同伴たぁ、意外にやるじゃねえか。……で? 何の用だ。俺に用があって来たんだろ?」
「よ、嫁か……」
三島の茶化しに軽く頬を朱に染める瀬那は敢えて放っておきつつ、一真は苦笑いしながら「まあ、そんなとこです」と頷いて、
「俺たちの機体の、装備確認に。今回は少し変則的らしいんで、一応」
そうやって一真が言うと、三島は「そうか」と頷き。「ちょっと待ってろ」と言うと一旦格納庫の奥に引っ込んで、何やらチェックリストを纏めたらしいクリップボードを持ってきた。
「えーとだな……。坊主のタイプFからで良いか?」
「はい」クリップボードに視線を落とし、ペラペラと紙を繰りながらの三島にそう、一真が頷いてやる。
「といっても、普段とそんな変わんないと思いますけれど」
「……あー、だな。両手に20mmの突撃機関砲と、背中のサブ・アームに散弾砲がそれぞれ二挺ずつ。腰のハードポイントに対艦刀が左右一本ずつだ。
何なら、何か変更掛けとくか? 今ならまだ、装備換装も間に合うぜ」
三島に訊かれ、一真は「そうっすね……」と顎に手を当てて一瞬悩むと、
「なら、手持ちは93Bの重機関砲を一挺きりに変更で頼んます。サブ・アームには右に銃剣付きの20mmと、後は左側にガンナー・マガジンを三パック。後は右腰の対艦刀を外して、そこに散弾砲って感じで」
「ほう?」一真の兵装変更指示に、三島が興味ありげといった風に目を丸くする。「珍しいな、坊主が重機関砲なんて」
「今回は閉所だし、なんとなくアレの方が便利な気がするんすよね。それに……」
小さく笑いながら一真が言い掛ければ、三島は「それに?」と訊き返してくる。そんな三島に一真は相槌を打つように頷いてから、
「……アイツの燃費の悪さ考えると、極力装備は軽くしたいってのも」
「あー、そういやこの間も言ってたな。タイプFの燃費が悪すぎるとか何とか……」
合点がいったように唸る三島に「うむ」と瀬那が横から首を突っ込んできて、それに頷く。
「一真の戦い方は元より、比較的スラスタを使わぬ中衛の私でも、かなり推進剤は使ってしまうのだ。"ヴァリアブル・ブラスト"は確かに有用なのやもしれぬが、正直あの燃費の悪さは欠陥と言っても差し支えないと、私は思うが」
「うーむ」
悩むように唸る三島。「坊主たちの方から、その報告は上げたのか?」
そう訊かれて、一真は「まだっすね」と答えた。「まだ、確証があるってワケでもないですし。欠陥と決めつけるには、早計な気がしちまいまして」
「いや、それはアイツに報告しておいた方が良い。何なら、俺の方からも報告上げとくぜ?」
「あ、なら頼んます。一応、これが終わり次第、俺の方からも西條教官には報告上げとくんで」
一真がそうやって言えば、三島は「了解だ」と快諾してくれた。
「……っと、話が逸れちまったな。まあ坊主の方は分かったから、後で兵装変更に取りかからせる。それで? 嬢ちゃんの方も一応、兵装の確認しとくか?」
「頼む」三島に訊かれた瀬那が、二つ返事で頷く。
「っつっても、嬢ちゃんの方は変わりねえか……。銃剣付きの20mm突撃機関砲を両手に、グレネイド・ランチャー付きの奴を背中のサブ・アームに載せといた。腰はさっきの坊主と同じように、対艦刀が二本。……グレネイド・ランチャーのカートリッジはHEAT-MPとフレシェットだけで大丈夫か?」
「うむ、それで問題はない。予備のカートリッジは、榴弾の方を多めにしておいて貰えれば、助かる」
腕組みをしながら瀬那がそう頷けば、三島は「了解だ」と頷き返してくる。
「嬢ちゃんの方は変更無し……っと。坊主の方も心配は要らねえよ。兵装交換なんぞ、三十分もあれば終わっちまう。出撃までには、十分間に合うぜ」
ささ、出撃までもうちょいだ。お前らは休める内に、休んどけ――――。
一真たちの要件が終われば、三島はそう言いながらパッと踵を返し。後ろ手を振りながら、さっさと格納庫の奥まで引っ込んで行ってしまう。
「――――そうだ、言い忘れてたことがあった」
遠ざかっていくそんな三島の背中を見送っていると、三島は何かを思い出したみたいにひとりごちて、一瞬立ち止まるとこっちに振り返れば、
「……とにかく、最優先は生きて帰ることだ。何、機体は俺たちが徹夜すれば何とでも直っちまう。だが、幾らメカマンが死に物狂いで働いたトコで、乗り手が居なきゃ話にならねえんだ。
――――テメーらが一番高価で代えの効かないパーツってコト、そろそろ自覚しとけよ?」
一真と瀬那、格納庫の出入り口に立つ二人に向かってそう告げる三島がニッと浮かべる笑みは、実に渋く重みのある、しかし何処か頼り甲斐のある笑みだった。
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