Int.63:ファースト・ブラッド/吉川ジャンクション迎撃戦①

『前衛各機、正面のグラップルを狙ってください! 敵の出鼻を挫くのです!』

 錦戸の命令を聞いてか、或いは聞かずか。200m刻みの間隔で横並びにゴルフ場へ展開する一真、ステラ、それに国崎の三機は、各々の機のマニピュレータが持つ93式20mm突撃機関砲を、無我夢中で撃ちまくっていた。

「オオオォォォ――――ッ!!」

 知らず知らずの内に雄叫びを上げながら、一真は自身の≪閃電≫・タイプFが右手に持つ突撃機関砲を絶え間なく撃ちまくる。左肩に担ぐ220mmロケット砲を今すぐにでもブッ放したい衝動に駆られていたが、それには何とか耐える。

『来るな、来るなよ……! 来てくれるんじゃないよォォォッ!!』

 それは、国崎とて同じことだった。腹の奥から湧き上がってくる本能的な恐怖心を僅かな精神力で何とかギリギリのところで抑えつけつつ、彼もまた≪叢雲≫の右手が持つ93式突撃機関砲をあちらこちらへ向けて掃射している。左肩にロケット砲を担いでいたり、彼の機体も一真機の兵装構成とまるで同じだった。

「――――ッ!」

 としていると、一真機の右手の中でアレだけ唸っていた突撃機関砲が、唐突にうんともすんとも言わなくなる。慌てて視界の右端へと一真が視線を這わせてみれば、そこにある残弾表示ゲージには"0000"と数字が四つ並んでいて。赤色の警告表示に変わったそれは、突撃機関砲の弾切れを知らせていた。

「ヴァイパー02、残弾無し! ……再装填リロード!」

『了解です、ヴァイパー02。私がカヴァーに入ります――――その隙に!』

「りょ、了解っ!!」

 一真の報告に呼応し、50mほど横に飛んで間合いを詰めてきた錦戸の≪極光≫を横目に見ながら、一真は突撃機関砲の空弾倉をイジェクト。腰部後方の弾倉ラックから、備え付けの小さなロボット・アームを使って新しいカートリッジを引っ張り出す。

『報告より、数が多い……!』

 そうやって右手の93式機関砲に新たな弾倉をロボット・アームに装着させながら、一真は左方の≪極光≫で錦戸が小さく毒づくのを聞いていた。

 しかし、錦戸機の火力は凄まじい。右手マニピュレータに多弾数ガンナー・マガジン付きの93B式支援重機関砲を、アンダー・マウントへ銃剣を吊り下げた格好の93式突撃機関砲を左手に持ち、それらをそれぞれ構える錦戸機から投射される火力量は、正に暴力的だった。

『これは、少なく見積もっても二百近いですね……。スカウト1は何を見間違えたのでしょうか……』

「ヴァイパー02、再装填リロード完了ッ!」

『了解です。――――しかし、これは少しばかりプランを変更する必要があるやもしれませんね』

 一真の報告を片耳に聞きながら、錦戸は独り言のように呟く。そうしながらも、しかし両手の機関砲から撃ち放つ鬼のような20mm砲弾の雨あられは止まるところを知らない。

『ヴァイパー01より前衛各機、作戦変更です。限界まで敵をこちらに引き付け数を減らしつつ、適当なタイミングでゴルフ場の半ばまで後退。02、08はそれまで220mmロケットは温存し、一歩下がって。先鋒は私と04で抑えます。

 ――――レーヴェンスさん、構いませんね?』

『04、了解……! ったく、実物って意外と気持ち悪いのね……!』

 一真と国崎が錦戸の命令に頷くのを横目に、ステラは小さく唇の端を噛みながら、FSA-15Eストライク・ヴァンガードが両手に持つ93式突撃機関砲を撃ちまくっていた。口振りこそ相変わらずだが、しかし語気の端には焦りと、少しの恐怖心が漏れ出ている。精神力とプライドだけで以て必死に抑えつけているそれが、少しだけ。

『はっはっは、じきに慣れますよ』

 しかし、それに笑ってみせる錦戸の方には恐怖だとかそういった感情は一切見られず、寧ろ落ち着いているような感じだった。

(流石に、あの舞依の副官ってワケじゃないか)

 同じように突撃機関砲の掃射を続けながら、一真はふと思う。やはり錦戸、伊達に伝説の機動遊撃中隊≪ブレイド・ダンサーズ≫であの西條の右腕をやっていただけのことはあるらしい。

 しかし、視界の端に浮かぶウィンドウに映る錦戸の顔付きは、普段の好々爺めいた色が薄くなっていた。あの厳つい顔立ちに見合うだけの渋い顔で、正にベテランといった風格を漂わせている。歴戦の勇士とは、正に彼のような男のコトを言うのだろう。

『それより04、残弾管理の徹底を。足りなければ、私のガンナー・マガジンを使ってください』

『ご忠告、感謝します。……ですが、その必要はッ!』

 ステラがそう叫べば、しかし同時にFSA-15Eストライク・ヴァンガードが両手マニピュレータに握っていた93式突撃機関砲はカートリッジ内の砲弾を切らし、弾切れを起こす。

『何の為に、わざわざ余計に持ってきたかッ!!』

 しかし――――突撃機関砲の空弾倉をイジェクトしながらステラが叫ぶと、途端にFSA-15Eストライク・ヴァンガードの背中が動いた。

 サブ・アームを兼ねた、背中から生える左右の兵装マウントが独立して動き始め。するとそこに予備として懸架されていた二挺の93式突撃機関砲を、上下逆になる格好でステラ機の肩越しに前方へと向けたのだ。

 数百mの向こう、森を越えた奥から加速度的に迫り来る幻魔の群れへ向け、肩越しに突き出された砲口が光る。

 ともすれば、肩から突き出る一対の砲口が瞬き始め。半分自動照準ではあるものの、しかしステラ機は再び20mm砲弾の掃射を再開した。

「やるじゃねーか、ステラッ!」

『当たり前よッ!』

 ニッとしながら思わず叫んだ一真の賛辞に、ステラもまた小さく口角を釣り上げながら頷き返す。

『こういう戦い方だって、ある! 覚えておきなさい、カズマッ!』

 そう呼びかけながら、ステラは先程の一真機と同じように腰部後方のロボット・アームを動かし、弾倉ラックから掴み取った次の弾倉を手持ちの突撃機関砲へと再装填する。

 ――――なるほど、確かにこれなら再装填の隙は最小限で済む。

『余計なコト喋ってんじゃないよ! 俺たちはさっさと下がるぞ、弥勒寺!』

「分かってる! 国崎、テメェは耳元で怒鳴るんじゃあないッ! ――――ヴァイパー02、08、予定ポイントまで後退する!」

 何故かやたらと焦る国崎に毒づきながら一真がそう報告すると、『ヴァイパー04、了解!』というステラの短い返事の後、錦戸の声も聞こえてくる。

『了解しました。――――レーヴェンスさん、限界まで我々でここを持たせます。準備と覚悟の程は?』

『いつでも、とっくに!』

『なら、参りましょうか』

 スラスタを逆噴射させ、掃射を続けながら後退する白い≪閃電≫・タイプFとダークグレーの≪叢雲≫。その視界の中で、互いの距離を縮めつつ深紅と黒灰色、二機のTAMSがこちらに背中を向けたまま立ち止まり、迫り来る敵の群れに対し尚も苛烈な砲撃を続けていた……。

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