Int.11:ありふれた一日、されど男の往く先は
「――――えっ、今日ステラ居ないの?」
それから数日経った後。昼休みになるなり案の定こちらの教室にやって来たエマに言われ、瀬那は「うむ」と頷きそれを肯定した。
「珍しいね、ステラがそんな……」
目を丸くしながらエマは唸り、「風邪か何か?」と続けて訊いてくる。それに一真は「らしい」なんて短く頷いて肯定すると、
「詳しいことは俺たちも知らねーけど、体調不良だってさ」
「へえ、ホントに珍しいこともあったもんだね」
「ま、馬鹿は風邪引かないって言うしな。俺だってヒトのコト言えたタチじゃないけども……」
わざとらしく大袈裟に肩を竦めながら、そんな風に一真は冗談を口走る。するとエマもクスッと軽く頬を綻ばせ、「じゃあ、後でお見舞い行かないとだね」なんてことを口走る。
「ふむ、お見舞いか……」
「? 瀬那、どうかした?」
首を傾げるエマに訊かれ「いや」と瀬那は軽く否定し、「構わぬのだが、
「うーん……」
すると、エマは立てた人差し指を口元にやりながら首を傾げ、思い悩むように小さく唸る。
「まあ、大丈夫じゃない?」
少し唸った後で、軽く微笑みながらエマは瀬那に向かってそう、結論を告げた。
「ううむ、そうなのだろうか」
しかし未だに苦い顔の瀬那に、「良いと思うよ、僕は」とエマは続けて言って、
「ホラ、風邪とか引いた時ってさ、なんだか妙に心細くなるじゃない? 人恋しくなるっていうか、無性に寂しくなるっていうか。……分かるかな?」
エマにそう言われ、瀬那は「ふむ」と一応の納得を得たように頷く。
「左様か。其方がそう申すのならば、これ以上私がとやかく言うこともあるまい。
――――
「うん」肯定するエマ。「カズマもどうかな? もし予定が合えば、だけれど」
「構わんぜ、今日は特にない」
そうやって一真も二つ返事で話に乗っかれば、エマはフッと頬を綻ばせて「そっか」と嬉しそうな顔をして、「じゃあ、決まりだね」と続けた。
「それはそれとして、今をどうするかであるな。今日も食堂、参るのか?」
「元々、初めからそのつもり。――――じゃあカズマ、瀬那。行こっか」
頷く瀬那と共にエマは一真を連れて食堂に行こうとするが、しかし一真は「いや」と軽く手を横に振り、
「済まん、この後チョイと用があるんだ。悪いけど、今日は二人で行ってくれ」
そう、詫びながら二人へ断りを入れる。
「珍しいな、其方が」
至極意外だと言いたげな顔で目を丸くした瀬那にそう言われれば、一真は「まあね」と短く、苦笑いを浮かべながら返す。
「そっか、残念だけど仕方ないね。じゃあ瀬那、僕らだけで行こうか」
「うむ、
軽く後ろを振り向きながらそう言って、遠ざかっていく瀬那とエマに「悪いな」と一真はもう一度言うと、自分も漸うと席から立ち上がる。そうして一真も同じように、彼は独りだけでA組の教室を飛び出していった。
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