Int.07:白と白、男の拳と交錯するは死神の剣か④

「さあ、こっから第二ラウンドと洒落込もうぜェッ!!」

 スラスタを逆噴射させ、一真は一度≪閃電≫を≪叢雲・改≫から離れさせる。一度間合いを取り直してから、右手の対艦刀を右腰マウントに戻した一真の≪閃電≫は再び対艦刀一本だけを両手に持ち直し、それを再び構えて純白の≪叢雲・改≫と正対する。

『…………!』

 しかし、今度は≪叢雲・改≫の方が先に仕掛けてきた。一真が対艦刀を構え直すタイミングとほぼ同時に、対艦刀を霞構えにすると背中のメイン・スラスタを吹かしながら一真の≪閃電≫の方に突っ込んできたのだ。

 霞構えから繰り出されるのは、鋭い突きの一撃。胸部から首の付け根辺りを狙い澄ましたその一撃を、一真は刀身を引き寄せた対艦刀の上を滑らせ、弾くようにすることで防御する。

「ふっ……!」

 すると一真はすぐさまその刃を返し、右から横一文字に薙ぐようにして反撃の一手に出る。

『――――』

 それを≪叢雲・改≫は引き戻した刀身を下に向けて受け止め、流す。横薙ぎの一撃を受け流された一真に出来た一瞬の隙を突いて、斬り返すように≪叢雲・改≫はそのまま、一真から見て左方よりの袈裟斬りを放った。

「中々!」

 それを一真は、引き戻した刃を横に倒して一撃を受け止めた。先程やられた意趣返しのように袈裟斬りを受け止めたその対艦刀を押し、構えた対艦刀を無理矢理縦に引き戻しつつ、文字通りの鍔迫り合いへと発展させる。

「しゃアッ!」

『――――ッチッ!』

 互いに鍔同士を押し合い、二機が同時に後ろっ飛びに一瞬間合いを取った。距離にして二刀分の間合い、詰めれば一瞬の距離だ……!

「まだだ! 派手に行こうぜ、なぁ――――ッ!!」

 飛び退いた途端、一真は対艦刀の柄を左手だけに持ち替え、肘を大きく引き刀身を横倒しに、そして右手は峰に這わせるだけの構えに、得意の片手平突きを撃つ構えを取った。

『ふっ――――!』

 しかし同時に、≪叢雲・改≫もまた、全く同じ片手平突きの構えを取ってみせる。全く同じ、まるでコピーしたぐらいに同じ構えを。

「な……っ!?」

 そんな予想外過ぎる光景を見たものだから、一真は狼狽して一瞬、声にならない声を上げる。しかしすぐさま不敵な笑みへと顔付きを変えると、

「いいぜ、やってやろうじゃねぇかッ!!」

 地を蹴り、先に一撃を繰り出さんべく踏み込んだ。

 背中のメイン・スラスタを吹かし、そして左肘サブ・スラスタを主として虎の子の"ヴァリアブル・ブラスト"も最大出力で吹かす。常識外れの推力を伴って繰り出されるのは、正に神速の一撃だ――――!

『…………』

 一真の≪閃電≫が着地し、大きく一歩を踏み込めば、爆発的な推進力の炎を左肘のサブ・スラスタから吹きつつ片手平突きが放たれる。

 しかし、それに≪叢雲・改≫は避けることもせず――――あろうことか、己もまたその場で片手平突きを撃ち放った。

「オオォォォォ――――ッ!!」

『ッ……!』

 切っ先と切っ先が重なり合い、激突する。凄まじい激突音が木霊したかと思えば――――次の瞬間には、両者の対艦刀は宙を舞っていた。

 回転し、大きく弧を描きながら落着した二本の対艦刀が、地面に深く突き刺さる。≪閃電≫も≪叢雲・改≫も、互いに片手平突きを放った格好のまま、その場から微動だにしない。

「――――ヘッ」

 そして、数秒後――――小さく笑みを浮かべた一真が、初めて口を開いた。

「…………もしかしなくても瀬那、だな?」

 確信を秘めた目付きで一真がそう告げれば、『…………フッ』と小さく笑う声が聞こえてくる。

「戦ってる内に分かった。あの立ち振る舞いに太刀筋、それに戦い方。極めつけはあの片手平突きだ……。間違いない、瀬那だろ?」

『――――流石は一真だ、まさか本当に見破られてしまうとはな』

 そんな聞き慣れた声音が聞こえた、その瞬間。"SOUND ONLY"となっていた網膜投影の表示が一気に消え、コクピット・シートに身体を預ける瀬那の姿が一真の視界の端に映った。

「ったく、冷や汗の掻き損だぜ……。こんな提案、誰が――――って、わざわざ言うまでも無いよな」

『うむ』瀬那が頷く。『舞依が言い出しっぺだ。全く、随分と悪趣味なことをする』

「ああ、同感だぜ」

 ニッと小さく笑みを浮かべながら一真がそう言った途端、『そこまでだ』と西條からの通信が入ってきた。今度はしっかり顔も見え、相変わらずの何故か白衣を羽織る格好の西條が視界の端にしっかりと投影されている。

「教官、冗談にも程がありますよ」

『はっはっは、イイ刺激になると思ってな。残念だがソイツは私の≪叢雲・改≫じゃあない。ただの叢雲D型を、そっくり塗り替えただけの代物だ』

「ったく、貴女ってヒトは……」

『まあいい。とにかく、良い模範演武を見せて貰った。二人とも、もう上がって良いぞ』

 そんな西條の言葉に、一真は辟易した調子で。瀬那は普段通りの声音で「『了解』」と頷いた。

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