Int.06:白と白、男の拳と交錯するは死神の剣か③
「オオォォォ――――ッ!!」
先に仕掛けたのは、一真の方だった。
73式対艦刀を両手に、下段に構えた格好で地を蹴り、背中のメイン・スラスタを吹かしながら眼前の白い≪叢雲・改≫へ
「だぁぁぁぁっ!!」
右下方に対艦刀を据えた下段の構えから繰り出す、右斜め下方からの逆袈裟での一撃。一瞬の踏み込みからのこの一閃、完全に捉えたと一真はほくそ笑むが――――。
「っ!?」
しかし、それを≪叢雲・改≫は一真が踏み込んだほんの一瞬後、すぐさま後ろに小さく飛び、一真の繰り出した逆袈裟の一撃を難なく回避せしめた。
「チィッ!」
だが、その程度で動じる一真ではない。≪閃電≫は繰り出したその斬撃を避けられながらも、もう一歩を更に踏み込む。左上方に振り上げた刃を返し、横薙ぎに近い格好で追撃の一閃を放つ。
『――――』
しかし、≪叢雲・改≫は無言のまま、もう一歩を飛び退くことでその一撃も避けてみせる。
「畜生! ちょこまかと――――ッ!」
その後も二撃、三撃と一真は次々斬り込むが、しかしそのすべからくを≪叢雲・改≫は時に後ろっ飛びに、時に横に機体を逸らすことで回避するのみ。そんな≪叢雲・改≫の動きに苛立ちを覚えながら、一真は一歩、また一歩と踏み込んでいく。
(どういうつもりだ……?)
≪叢雲・改≫は一真の斬撃を避けることに徹し、反撃の一手を繰り出そうともしない。一真はそんな≪叢雲・改≫に斬り込みながら、しかし何処か違和感を覚えていた。
――――まさか、俺を試している?
相手があの西條教官なら、有り得ない話じゃない。敢えて受けに徹することで、一真の実力を試そうとしているのか……。
しかし、それにしても先程から西條が延々無言なのが不気味だ。視界の端に網膜投影されるウィンドウも相変わらず"SOUND ONLY"のままだし、一体西條は何のつもりなのか。
「まあ、ンなことはどうだっていい……!」
そっちがその気なら、こっちにだって考えがある――――!
一真は左手一本で柄を握り締めた対艦刀を振り被り、それを目の前の≪叢雲・改≫へ向け馬鹿正直に振り下ろした。
無論、それは少し機体を左方に逸らしただけの≪叢雲・改≫にいとも容易く回避されてしまう。しかし――――それでいい。
「ヘッ……!」
≪叢雲・改≫が、その斬撃を避けた瞬間――――≪閃電≫のガラ空きだった右手が、己が右腰に走る。
そして、そこにマウントされていたもう一本の73式対艦刀の柄を握り締め、それを逆手に抜き放った。
『――――!』
抜きざまの、完全に不意を突いた一撃。≪叢雲・改≫はそれを一瞬見ただけで咄嗟に身を捩らせるが、しかし一真が右腕で振り上げる対艦刀は、純白の装甲を少しばかり掠めた。
「まだだァァァッ!!」
振り上げた刃を、一真はマニピュレータを巧みに操作し空中で柄を逆手から順手に持ち替える。そうして刃を振り下ろせば、今度こそ≪叢雲・改≫にそれを避ける術は無い――――!
『…………ッ!』
データリンク通信から、小さな息づかいが聞こえた――――その瞬間。
「ッ!!」
刃と刃が、強化炭素繊維の訓練用刀身同士がぶつかり合う重苦しい音が、演習場に響き渡った。
「………ヘッ、やっと刀を使ってくれたな」
――――≪叢雲・改≫は、振り下ろされた一真の刃を、引き寄せた己の対艦刀を横倒しにしてギリギリのところで防いでいたのだ。
一真が右腕で振り下ろした対艦刀を己の刀で防ぎ、もう一本の対艦刀を持つ≪閃電≫の左手も、≪叢雲・改≫はその右手マニピュレータでガッチリと掴み、二撃目を触れないよう固めている。
「遊びは、もう終わりにするとしようぜ……?」
『――――ふっ』
不敵な笑みで一真がそう呟けば、小さく笑みを浮かべるそんな声が聞こえた気がした。
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