Int.32:金狼の牙と白狼の炎、斬り結ぶは神速の剣⑥
「エマが、正面からですって……!?」
その頃、試合の様子を映し出す中継モニタが設置された簡易格納庫。そこで
「む? ステラよ、それが
隣でやはり腕を組み、モニタに映る試合を眺めていた瀬那が訊けば、ステラが「問題? 大ありよ」と皮肉めいた口調で、しかし顔付きは実にシリアスな風に言う。
「アイツの戦い方が冷静で狡猾だってのは、知ってるわよね?」
「うむ」頷き、肯定する瀬那。「であるのならば、正面から掛かってくる方が一真にとって、寧ろ好都合なのではないか?」
「ンなワケないって。考えてもみなさいよ? 四六時中スカした顔してる奴が、いきなりあんなキレたみたいにニヤニヤし出してるのよ? これって、怖くないかしら」
「……む、確かに」
「正直、エマの実力の底の底まで、アタシだって全部知ってるワケじゃない。アンタらより多少付き合いは長いって言っても、それでも数ヶ月だからね……。
それに、アタシはエマと直接戦ったことは無い。だから結局、真っ正面に立ったエマが何処まで戦うかは未知数なんだけど……」
「しかし、戦術であれだけ他者を圧倒する者だ。小細工抜きでの実力は、やはり相当に高いと見える」
「かもね」相槌を打ち、ステラは続けて言う。「ちょっと見た感じ、ウデ自体は相当良いはず」
「うむ……」
見上げる瀬那の視界の中、モニタの向こう側で一真の白い≪閃電≫と、市街地迷彩で染め上げられたエマの≪シュペール・ミラージュ≫が豪雨に打たれながら、互いの対艦刀を斬り結んでいる。
それをじっと見上げながら、瀬那はただ黙って口を紡ぎ、試合の行く末を見守っていた。
「……一真よ」
――――正直に言って、やはり一真にエマの相手は荷が重すぎると瀬那は考えていた。一真もここ一ヶ月ほどで相当にウデを上げて来てはいるが、しかし相手はステラ以上の腕前とすらも思える程の手練れ。あのエマ・アジャーニが、しかも小細工抜きで正面からぶつかってくるともあれば、どちらが勝つかなんて瀬那には分からなくなっていた。
もしあのまま、エマが今までの例にある通りの戦い方をしていれば、一真にだって勝機はあった。妙な小細工を一点突破するだけの力と、そして機体性能が一真には備わっている。
だが――――こうも真正面から来られると、分からない。ステラを相手に引き分け寸前といったギリギリの接戦をした一真が、いかにウデを上げているといえエマ相手に果たして勝利を勝ち取れるのか……。
そこで、瀬那はこれ以上考えを巡らせることをやめた。あまり変に考えすぎると、却って気が滅入ってきてしまう。変にネガティヴなことばかり考えすぎると、本当にそうなってしまいそうで不安になる。
だから瀬那は、それ以上のことを意図的に思考の外に弾き飛ばした。今こうなってしまった以上、自分が彼にしてやれることは何一つ無い。後は全て彼らのアドリブで進行することなのだ。
故に――――瀬那は、ただ祈ることしか出来ない。彼が最大の強敵エマ・アジャーニに勝利し、ここに凱旋して来ることを。
「きっと、勝つが
その言葉が、彼に届くことはない。そうは分かっていても、瀬那は届くよう祈らざるを得なかった。一真の元に、己が祈りが届くようにと。
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